先読み!企業業績 株式相場の歩き方#1日米首脳会談でも造船分野を巡り建造能力の拡大や対米投資に協力する覚書を結んだ Photo:Bloomberg/gettyimages

情報収集力に優れたプロがマーケットの「半歩先」のシナリオを大胆に予測する新連載の第1回。株式市場は半導体やAI関連の決算に一喜一憂しているが、地味ながら復活ののろしを上げつつあるのが造船セクターである。日本の造船業は中国勢にシェアを奪われていたが、安全保障の観点から再び注目を浴びており、受注残高も増加傾向だからだ。すでに株価は大きく上昇しているものの、足元ではさらなる追い風が吹いている。この勢いは今後も続くのか。造船セクターの主役候補の企業を挙げつつ、ブームの消費期限について分析した。(経済ジャーナリスト 和島英樹)

造船セクターに追い風ラッシュ
中長期で業績拡大が期待できる

 国内外で造船業界に向けた前向きな動きが台頭している――。

 2025年10月末、金子恭之国土交通相とハワード・ラトニック米商務長官は日米両国が造船分野で協力を推進するための覚書に署名した。両国は今後、「日米造船作業部会」を設置して建造能力の拡大などを推進する。経済安全保障にも直結する分野で連携する。

 国内では今年6月に政府がいわゆる「骨太の方針」で日本の造船業を再生し、「海運業や造船業を中核とする海事クラスターを強靭化する」と表明。同じ月に自民党の海運・造船対策特別委員会などが、石破首相(当時)に「我が国造船業再生のための緊急提言」を提出した。

 10月には日本船主協会、日本造船工業会など船舶関係の4団体が、国土交通相などに「我が国造船業再生に向けたお願い」を提出したという。その中で「2035年の1800万総トンの建造能力確保に向けての、必要な支援規模と支援割合を備えた『基金』の創設」のほか、即時償却など税制面での設備投資支援などを求めている。1800万総トンは現在の2倍に相当する。

 日本はかつて世界の造船市場のけん引役だった。1970年代から80年代にかけて世界シェアの約5割を占め、造船王国とさえ呼ばれていた。

 それ以前は米国が世界一に君臨していた。日本の人件費の安さや技術力が評価されたものだが、その後は競争力をつけた韓国勢に抜かれている。

 そして、現在では中国が推定約7割の圧倒的なシェアを握っている。中国船舶集団をはじめとした大手造船所は競争力を高めたうえ、政府主導の再編による規模の拡大が奏功した。中国政府の「一帯一路」構想で経済圏の拡大を目指す中で造船業がさらに潤っている。

 いったん大きく沈んだ造船ニッポンだが、本格復活できるのか。次ページでは「さらなる追い風」を解説しつつ、中長期で成長できるかどうかのポイントを指南。意外な周辺企業を含めた造船関連の主役候補を紹介する。