全国に103人もいる同姓同名「田中宏和」たちの珍事件簿写真はイメージです Photo:PIXTA

銀行の審査に落ちかけた理由が「同じ名前の人の借金」だった。そんな信じられない出来事から始まった“田中宏和現象”。全国各地で巻き起こる同姓同名トラブルは、笑いと驚きの連続だ。病院、旅行先、マラソン大会、どこに行っても「田中宏和」はいる。偶然の出会いが生んだ小さな奇跡の物語を、ユーモラスに描く。※本稿は、ブランド・クリエイティブ・ディレクターの田中宏和『全員タナカヒロカズ』(新潮社)の一部を抜粋・編集したものです。

まったく身に覚えのない
多額の借金の正体

 現在では信じがたいことだが、当時は元旦に届くよう年賀状を出すのは常識、義務とも言える日本国民の一大行事であった。今と違って、家にプリンタは無い。気軽に写真を印刷なんてとてもできなかった。毎年ネタを探し、文案を考えることになる。わたしは年賀状を出すというイベントが好きだったので、年末になると、宛先の人をにやりと笑わせるアイデアを考えることを楽しんでいた。

 1997年の年賀状は、同姓同名「田中宏和」間違いの出来事を綴った。

 昨年の11月、事件は突然やってきました。銀行からお金を借りることになっていた私は、審査が通るのを待っていたのです。そして、連絡が入りました。

「田中さんは、以前●●県○○市に住んでいたことはなかったですか」

「いえ、無いです」

「実はこちらの審査で田中さんがかなり多くの借金をされていることがわかりまして、審査が通らないんです」

「いや、身に覚えが無いですよ、同姓同名の間違いじゃないですか」