AIが「使えるかどうか」は、人間側の「使い方」で決まります。
そう語るのは、グーグル、マイクロソフト、NTTドコモ、富士通、KDDIなどを含む600社以上、のべ2万人以上に思考・発想の研修をしてきた石井力重氏だ。そのノウハウをAIで誰でも実践できる方法をまとめた書籍『AIを使って考えるための全技術』が発売。全680ページ、2700円のいわゆる“鈍器本”ながら、「AIと、こうやって対話すればいいのか!」「値段の100倍の価値はある!」との声もあり話題になっている。思考・発想のベストセラー『考具』著者の加藤昌治氏も全面監修として協力し、「これを使えば誰でも“考える”ことの天才になれる」と太鼓判を押した同書から、AIの便利な使い方を紹介しよう。
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AIを使って“改善策”を考える「聞き方」
AIを仕事に活用できるシーンは多々ありますが、業務の効率化や自動化だけに使うのは少々もったいない。新しいアイデアを考えるといった、「頭を使う作業」にもAIは活用できます。
ただし、適当な聞き方をしても、質の良い回答は得られません。ロクでもない回答が返ってきてしまうときには、人間側の質問(プロンプト)が適切でないことがほとんどなのです。
たとえば、改善策を考えたいときにおすすめなのが、技法その51「重要な要素」です。
こちらが、そのプロンプトです。
以下のようなターゲットユーザーが求めるもっとも重要な要素(あるいは機能)は何ですか?
〈顧客の属性や特性などを記入〉
「変えてはいけない価値」を把握できているか
「人」の価値観や深層心理を探り、それを起点にして商品やサービスを改善・改良することが重要です。
ただ、その際に気をつけるべきことがあります。「既存の魅力」を損ねてしまうことです。
スマートフォンを例に出すと、小型軽量化による改良を目指すあまり画面が小さくなりすぎて、動画を見たり文字を打ったりするのに不便になるとか。
「ユーザーが本当に重視している要素は何なのか?」を押さえていないと、どんなに良さげなアイデアであっても的外れに終わります。それどころか逆効果になることも。「そうじゃないんだよ……」と思われるのは避けたいですよね。
反対に、本当に重要な要素を押さえていれば「サイズが大きいタブレット型を出す」「画面を大きくして折りたたみ式にする」といったアイデアが導き出されます。
短所を補うときも、長所を伸ばすときも、何かしらの変化を加える際は、「それでも失ってはいけない本質的な価値」をしっかり把握して、守る必要があるのです。
人は「自分のこと」をわかっていない?
(本人が意識しているかどうかは別にして)ユーザーの真意に迫るべく、これまでに様々な調査手法が開発されてきました。大規模アンケート、デプスインタビュー、フィールドワーク、ビジネスエスノグラフィー、演劇ワークショップ……それぞれに工夫があります。
ただ、マーケティングの世界では「本当のニーズはユーザーに直接聞いてもわからない(答えとして返ってこない)」と言われています。誰もが様々な特徴や個性を持ち、それによって商品やサービスを選択しているはずなのに、「なぜ選択したのか」「その基準がどこにあったのか」についてユーザー自身はよくわかってないことが多々あるわけです。
そして残念ながら、私たちは他人に100%なりきることはできません。生活を共にしている家族であっても、わかり合えないことだらけです。他人が重要視している価値観は想像するしかありません。
ユーザーにとって「重要な点」を探る技法「重要な要素」
人間が重要な要素と感じているものは、大抵はインタンジブルなものです。つまり、手に取って触ることができません。重要なのはプロダクトやサービスそのものではなく、それらが生み出す機能やユーザーの脳が感じ取る価値や効能です。
そういったユーザーの心の奥底に迫る作業を、AIで「エイヤッ」とやってしまうのが技法その51「重要な要素」です。
プロンプトはシンプルです。素直に「重要な要素は何ですか?」と聞いてしまいます。ただ、インタンジブルな要素をAIで言語化して回答させるためには、プロンプトで「重要な要素を」と指示するだけでは質問文としてやや弱い。そこで「あるいは機能」と明示して、AIがデータベースにアクセスしやすくなるようにしています。
ユーザーの属性などは見えていて、彼らの本音に迫りたいときはもちろん、自分がよく知らない物事やユーザーに関するアイデアを考えるときにも有効な技法です。
ノイズもあればハルシネーションのような“嘘”が含まれることは否定できませんが、自分勝手に想像するよりは精度が上がります。
予算の制約があってユーザー調査ができない場合、試してみる価値は充分あるでしょう。
技法その51「重要な要素」、ぜひ活用してみてください。
(本稿は、書籍『AIを使って考えるための全技術』の内容を一部抜粋・編集して作成した記事です。この他にも書籍では、AIを使って思考の質を高める56の方法を紹介しています)








