しかも、法曹をめざすことが、あまりにもコストとリスクの大きい選択となったために、優秀な人材が法学部を選ばなくなった、という事情があると思います。

 弁護士が活躍する領域はますます拡大しており、しかも、その仕事はやりがいのあるものです。

 実際、テレビドラマには法廷ものがあふれています。かつては、陪審制のない日本では法廷をドラマにするのが無理だと思われていたことなど、噓のようです。

間口の広さを理由に
受験生が殺到するも…

 法曹への社会的関心は、ますます大きくなっているといえるでしょう。それにもかかわらず志望者が減少しているのはなぜか。

 ひと言でいえば、それは法曹養成制度の制度設計の失敗によるのです。

 2004年に法科大学院制度が導入されたとき、法学部を出ていなくても7割以上の確率で司法試験に合格でき弁護士資格を得られるとの誤解が広がりました。

 もしかしたら、これは「誤解」ではなく、7割以上という報道が正しくないことを志願者たちは見抜きつつも、少なくとも当初の、1、2年間だけは司法試験のハードルが下がることを冷静に分析して、法科大学院に殺到したのかもしれません。

 いずれにせよ、その結果として、非常に広い領域から優れた人材が多数集まりました。理科系出身者や、企業でそれなりの活躍をしていた人たちも、やって来ました。

 私は法科大学院制度発足直後の数年間、東京大学でその教育に携わりましたが、その頃の教室は活気と刺激に満ちていました。教室で私が投げかける質問に対して、即座に一斉に手が上がる光景は、それまでの法学部での教室では見られないものでした。

 そのとき教室にいた人たちは、いま弁護士となって現実に活躍しています。これは、制度設計次第で、法曹に多様な人材が集まりうることを証明したといえるでしょう。

 ところが、その後急速に法科大学院の志望者数が減少し、とりわけ、3年間コースの対象となる「未修者」と呼ばれる人たちが急速に減りました(法学部で法学を学んだ「既修者」は2年生から入り2年で修了します)。

 私はこの「未修者」という言葉が嫌いなのですが、本来は学部で法学を学んでいない人たち、つまり法学以外の専門性を持った人たちを意味しています。

 つまり、重要なのは法学が未修であることではなく、法学以外の専門性を持っているということなのです。