対峙する相手を敵に限定する必要はない。この洞察は、事業者が、批判的な顧客、さらには怒った顧客までも、アドバイザーに変えることができるという気づきにつながった。批判、中でも非建設的な批判は特に、敵意の一形態として受け取られるかもしれない。私たちは、批判を個人攻撃ととらえがちだ。

 しかし、人が苛立ちや不満を表明するのは、たいていの場合、自分のニーズを満たしてほしいからである。すべての組織は、そうしたニーズに耳を傾けることで学びを得られる。賢い事業者は、顧客からの苦情を慎重に検討し、改善に役立てるプロセスを設けている。

積極的に批判を受け入れ
地域とのつながりを強化

 それよりさらに一歩踏み込んで、批判者の参加を積極的に募っている団体もある。ユトレヒト市でホームレスの人びとにシェルターと支援サービスを提供するオランダの団体、デ・トゥッセンフォージーニングは、これを見事に実践している。

 創設者でディレクターのジュール・ファン・ダムは「初期の頃が一番難しかった」と私に語ってくれた。反対住民から怒りをぶつけられることもあった。だが団体は、彼らの抵抗を、取り組みに必要不可欠な要素として受け入れられるようになった。

 ファン・ダムいわく「初めての地域での最初の集会は、いつも大混乱になります。通常、2~3人が地域全体の反対を煽動しています。でも集会後に、仲間の住民をちょっと恥ずかしく思うと言いに来る人も、必ず2~3人いるんです。彼らは、私たちの目的は支持するが、心配もあると言ってくれる。こういう人たちこそ、私たちのプロセスに参加してもらいたいのです」

 この団体では、新しいシェルターごとに管理グループを設け、プロセス全体のコーディネーターを務めてもらっている。懸念を持ちつつ取り組みを支持してくれている人たちに、ここで参加してもらうのだ。彼らのおかげで、団体は、シェルターを設置する条件として市に要請すべき改善策――たとえば暗い道に街灯をつけるなど――を知ることができた。