午後4時に保育園に迎えに来る父親たち

 休暇を終えて米国に戻り、再び忙しく働くうちに、デンマークのことはすっかり忘れていた。だが、その後しばらくして妊娠がわかった時、夫は、「子育てするなら、日本や米国よりも、絶対にデンマークがいい」と私を説得した。

 こうして、生まれて初めて北欧という地域で暮らすことになり、改めて人々の暮らしを観察していたのだが、「これが本当に、同じ時代の、同じ地球上の国?」と思えるほど、リラックスしているのである。

 デンマークは、北欧5カ国のうち最も南に位置する国で、面積は4.3万㎢、人口は約600万人という小国である。福岡出身の私には、九州(3.7万㎢)よりやや大きい国土に、福岡県民(510万人)と佐賀県民(80万人)だけが暮らしているイメージがわかりやすいのだが、なんとなく規模感がおわかりいただけるだろうか。

 専業主婦はほぼ皆無で、男女ともに働いており、保育園に子どもを迎えに来るのも、父親と母親がほぼ半数。それでいて、迎えに来るピークの時間帯が、午後3時半から4時ごろという早さなのである。これほど早く迎えに来る父親が多いことに、はじめの頃はかなり驚いて、この人たちは何か特別な仕事をしているんだろうか、と不思議に思っていた。

 それで、お迎えで出くわした父親たちに、どんなお仕事を? と聞いて回っていたのだが、これが本当に様々なのである。企業勤めの人もいれば、大工やデザイナー、医師に国家官僚、地元サッカークラブのオーナーという人までいた。要するに、どんな仕事の人でも、子どもの迎えがある人は、かなり早く職場を出ているわけだ。

 そんなに早く子どもを迎えに行って、何をしているのかと言うと、特に何もしていない。急いで習い事に行かせるわけでもなく、近くの公園にでも立ち寄って、自由に遊ばせたりしているだけなのだ。日本では、共働き家庭でも、子どもの迎えはたいてい母親の役割だし、それも夕方6時といった時間帯。そこから、大急ぎで帰宅して夕食の準備をしたりするわけだが、それと比べると、何とものんびりとした光景なのだ。

“ゆるい働き方”でも一人当たりGDPは日本の2倍

 しかも、そんな働き方をしているのに、経済はうまく回っているようで、一人当たりGDPは7.5万米ドルと、世界のトップ10位に入る高さである。今や、日本(同、3.4万米ドル)の2倍以上、という驚くべき水準だ。平均年収だって、日本の1.5倍という高さである。

「16時台に帰宅」が当たり前…それでも日本の2倍稼ぐ、北欧デンマークのゆるく働いて豊かになる謎出所:IMF(2025年10月2日時点)

 つまり北欧の小国デンマークは、抜群のワーク・ライフ・バランスを誇り、国連の幸福度調査では、2012年の調査開始以来ずっと1~3位につけるという安定した“幸せの国”でありながら、それを支える経済がしっかりしているようなのだ。

 私がデンマークに移住した当時、デンマークについて書かれたものというのは、「幸せ」とか「ヒュッゲ」(気心の知れた人と心温まる時間を過ごす、といった意味)といった“北欧の丁寧な暮らし”にまつわること、あるいは、福祉国家という側面に焦点を当てた内容がほとんどだった。

 だけど、デンマークに移り住んで以来、私の関心の中心にあったのは、「働き方」と「経済的な豊かさ」であった。

 こんなゆるい働き方をしていて、なんで経済がうまく回るの? 競争の激しいグローバル経済のなかで生き残ってるの? 天然資源に恵まれているわけでもないのに?

 ヒュッゲはいい。午後4時に帰れるのも、いい。でも、それでしっかり稼いでいるというのは、豊かな暮らしを送れるっていうのは、どういうことなんだ、と。

※本記事は、『第3の時間──デンマークで学んだ、短く働き、人生を豊かに変える時間術』を抜粋、再編集したものです。