SNSが誕生したことにより、人類の「承認欲求」が高まり、他人からの評価を気にする人が増えている。この欲求に振り回されないために、私たちはどうしたらいいのだろうか。ストイックな生き方が身につく書、『STOIC 人生の教科書ストイシズム』では、2000年以上前に古代ギリシャで生まれた哲学「ストイシズム(ストア哲学)」をもとに、承認欲求に振り回されることなく満ち足りた人生を送る方法を説いている。本記事では、本書の内容をもとに承認欲求とどのように付き合えば良いかを紹介する。(文/神代裕子、ダイヤモンド社書籍オンライン編集部)

「いいね」をもらって喜ぶ女性

SNSが可視化した、現代人の承認欲求

「いいね」の数が気になって、SNSに投稿をした後に何度も確認してしまうことはないだろうか。

 SNSの誕生により、人の承認欲求について語られることが増えた。SNSで話題になることを目的に、「素敵な写真さえ撮れればいい」と食べ物を粗末にしたり、危険な行為をしたりする人も出てきたことは、誰もがご存じだろう。

 この承認欲求には「自己承認」と「他者承認」がある。

 本来、人は自分自身に認められたいという欲求を持っていて、これを「自己承認欲求」という。

 自己承認欲求が満たされない場合、それを他者に求めるようになる。それが「他者承認欲求」だ。

 つまり、元々誰もが持っている欲求が、SNSによって可視化され、加速していると言える。

 しかし、心理学によるとどれだけ他人に認められても、自分を認められなければ、幸せになれないそうだ。

 実はこれは、2000年以上前から哲学者が指摘していることなのだ。

 SNSによって可視化された“承認欲求”だが、その本質は2000年前から変わっていない。

承認欲求は2000年前から存在する

「ストイシズム」(ストア哲学)をご存じだろうか。

「ストイシズム」とは、2000年以上前に古代ギリシャで生まれた哲学。内省と自省を行うことで、われわれの内面の豊かさを引き戻し、自分でコントロールできることに意識を向かわせてくれる効果を持つ。

 近年、ビジネスパーソンの間でも話題となっていて、シリコンバレーでは、禅やミニマリズム、マインドフルネスなどとともに、ビジネスパーソンにとって必須の教養となっているという。

 そんなストア哲学者の一人にエピクテトスという人がいる。

 彼は賢者のような教師で、奴隷の子として生まれたが、哲学者ムソニウス・ルフスのもとでストイシズムを学び、のちに自由の身となって哲学の学校を開いた。

 そんな彼が承認欲求について、次のような言葉を残している。

不安に駆られている人を見ると、わたしは「この人は何を求めているのだろう?」とひとりごちる。なぜなら、自分の力の及ばないものを求めていないかぎり、不安であり続ける理由がないからだ。
それこそが、キタラ奏者が一人で弾き語りをするときはいっさい不安を見せないが、舞台に上がると、たとえ素晴らしい美声とともにキタラを見事に演奏しても、不安な様子を見せる理由だ。
そうなるのは、上手に歌いたいだけでなく、拍手喝采をもらいたいとも願うからだが、こちらについては奏者にはどうすることもできない。
――エピクテトス『語録』(第2巻第13章1-2)(P.92)

 この言葉について、著者のブリタニー・ポラット氏は次のように解説している。

他者の好感を得たいという衝動に駆られると、それが強い願望となり、ひいては不安を招きかねない。自分の仕事や行動、人格に周囲の意見を反映させるようになれば、自分が持つ自分への影響力を手放してしまうことになる。(P.93)

頭のいい人は「評価」より、本心からしたいことを望む

 本来人は、他人からの評価など気にすることなく、自分が本当にしたいと思ったことを、うまくても下手でも、まずは取り組めばいい。

 私たちは、そのことを知っているはずなのに、つい「うまくできているかどうか」を気にしてしまう。心のどこかで「誰かから認められ、求められない自分には価値がない」と焦りにも似た感情を持っているのではないだろうか。

 しかし、他人からの評価は自分ではコントロールできないのであるから、それを気にしても不安しか生まれない。

 だから、ポラット氏は「ストイシズムでは、自分で自分に送る静かな喝采さえあればいい」と語る。

 そう思えるようになるために、ポラット氏は次の2つのことを提案している。

1.誰かからの賞賛を必要としたときのことを振り返る。それはどのような状況だったか? なぜ称賛してほしいと思ったのか? そのときのあなたがほしくてたまらなかった評価を、いまのあなたが自分に向けて書こう。ほかの誰でもない、あなたの言葉で書いて送ることに意味がある。(P.93)
2.学んでみたい(やってみたい)が、失敗や中途半端に終わるのが怖くてチャレンジできていないことを3つあげよう。そして、上手にできないながらも楽しんでやっている自分の姿を思い描く。チャレンジしたいことから「完成度」という側面を排除すると、チャレンジしたい意欲は高まるか、それとも萎えるか?(P.93)

 本当にしたいことがあれば、他者の評価など気にすることなく、ただ楽しんでチャレンジすればいい。

 ポラット氏はそのようにアドバイスしているのだ。

 あなたが長年「やってみたい」と思っていることはあるだろうか? ストイシズムの精神で、今こそ一歩踏み出してほしい。