誰もが一度は「なぜ自分がこんな目に遭うのか」と思うような、つらい体験をしたことがあるだろう。その時には世の中を恨んだり、自分の行動を後悔したりとやりきれない思いをしたはずだ。しかし、そんな“波風のない人生”が本当に良いのだろうか――そう問いかけるのが『STOIC 人生の教科書ストイシズム』だ。これは、シリコンバレーをはじめ世界に広がっている「ストイシズム」について書かれた本である。本記事は、本書をもとに逆境を受け止める力の大切さについて紹介する。(文/神代裕子、ダイヤモンド社書籍オンライン編集部)
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セネカが語る「困難が人を強くする理由」
希望した学校に落ちてしまった。仕事で大きな失敗をしてしまった。大好きな人に別れを告げられてしまった。家庭の事情で夢を諦めざるを得なかった。
長い人生、誰もが一度はそんな悲しい思いや理不尽な思いをしたことがあるだろう。
その際には「なんで自分ばかりこんな目に遭わなければならないのか」と嘆いたり、誰にぶつけていいかもわからない怒りを感じたりしたはずだ。
できることなら、そんなつらいこと、悲しいことは一切体験せずに生きていきたい。そう思ってしまうが、著者のブリタニー・ポラット氏は「困難があるから成長できる」と語る。
そして、ストア派哲学者のセネカも次のような言葉を残している。
木は揺らされるからこそ強くなり、しっかりと根を張るようになる。
風のさえぎられた谷で育った木はもろい。
――セネカ『摂理について』(第4章16)(P.126)
このセネカの言葉を、ポラット氏は次のように解説している。
木と同じで、つらい環境は人間の精神力を鍛え、やり抜く力やレジリエンスを育むのだ。(P.127)
見方を変えることで、つらい経験が力になる
そうは言っても、なかなか前向きには捉えられない人も多いだろう。
筆者もそうだった。出版や編集の仕事に就きたかったが、就職活動で希望する業種の会社にまったく受からず、毎日絶望的な気持ちで過ごしていた。
その後も希望の仕事に就けるまで何年もかかったし、そうなるまではずっと「どうして私はうまく行かないんだろう」といつも心が晴れなかったのを覚えている。
だからこそ、本書を読んでも「いくら逆境が人を成長させると言っても、就職活動で苦労しないで済むならその方が良かったなあ」と感じてしまった。
しかし、ポラット氏は「逆境に対する受け止め方を変えれば、人生も変わる」と指摘し、次のような質問を投げかけている。
確かに、筆者はなかなか希望の仕事に就くことができなかった。しかし、その経験があったからこそ、「何がなんでも編集者やライターになりたい!」と思えたのかもしれない。
その後、編集者やライターになるための講座に通い、真剣に学んだ。そこで、かけがえのない友人もできた。
また、希望の職種に就くまでに働いていた会社で、パソコンスキルや対人スキルが身についた。後々自分でも「人生、なんでも無駄にならないものだな」と思ったこともある。
もしその経験がなければ、それはそれで別の苦労をしていたに違いない。
そして何より大事なのは、「あれはあれで役に立った」と思える強さを身につけたことかもしれない。
困難を糧に変える、ストイシズムの力
「人には人の地獄がある」との言葉があるように、誰にでもつらいことは降りかかる。
苦しみの沼に沈んでしまうと、さらに自分を追い詰めてしまう。なぜなら、前に進むことができなくなってしまうからだ。
「この経験があって良かった」とまでは思えなくても、「この経験があったから身についたものもあるよね」と考えることができたら、心が少しは強くなれるというもの。
ポラット氏はストイシズムのことを「非常に示唆に富み、社会にしっかりと定着した、よい人生を送るためのシステム」と語る。
もし、今あなたがつらい境遇にいたり、過去の苦しみからなかなか逃れられなくて苦しんでいたりするならば、ストイシズムについて学んでみるといい。
2000年以上にわたり、哲学者たちが考え続けてきた“よい人生を送るための知恵”を学ぶことができるはずだ。
苦難を避けることはできない。だが、その意味を見つけることは、いつでもできるということを。









