量子コンピュータが私たちの未来を変える日は実はすぐそこまで来ている。
そんな今だからこそ、量子コンピュータについて知ることには大きな意味がある。単なる専門技術ではなく、これからの世界を理解し、自らの立場でどう関わるかを考えるための「新しい教養」だ。
近日発売の『教養としての量子コンピュータ』では、最前線で研究を牽引する大阪大学教授の藤井啓祐氏が、物理学、情報科学、ビジネスの視点から、量子コンピュータをわかりやすく、かつ面白く伝えている。今回はビットコインについてを抜粋してお届けする。
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Googleの発表が引き起こした大暴落
Googleの「量子超越を実現した」という大々的な発表は、大きな反響を呼んだ。
この発表は「すべての暗号が解読されてしまい、ビットコインなどの仮想通貨が無価値になるのではないか」という不安を招いた。
ビットコインでは、本人が取引したということを証明するために、秘密鍵を用いた電子署名を行う。
第三者は署名者が公開する公開鍵を用いて署名が本人によるものであることを確かめることができるのだ。
暗号を解読することができれば、秘密鍵を計算し、本人になりすまして電子署名をして決済を行うことができてしまう。
これでは、仮想通貨の価値は無くなってしまうだろうという危機感からビットコインが暴落したのである。
ビットコインは安全?
しかし、直ちに心配する必要はない。現在の量子コンピュータの性能では、到底暗号解読はできないからだ。
Googleのチームによる見積もりでは、2048ビットの数の素因数分解には、2000万量子ビット規模の量子コンピュータで8時間程度かかると試算されている。
現在実現している量子コンピュータはせいぜい100量子ビット規模であり、まだまだこのレベルに到達していない。
2000万量子ビットの量子コンピュータの実現にはかなり楽観的に見積もっても10年、多くの研究者は20年はかかると予想しているのだ。
この暴落時にビットコインを買っておけばよかったと私は後悔している……。
(本稿は『教養としての量子コンピュータ』から一部抜粋・編集したものです。)





