人と動物の間の緩衝帯が失われて
野生動物の生活圏が拡大
人口減少と過疎化が進む日本の地方では、農地が放置され、かつて人と野生動物を隔てていた「緩衝帯」としての里山の機能が失われつつある。結果として、野生動物の生活圏が拡大し、「人とクマのパワーバランスが完全に逆転してしまった地域もある」(山内准教授)という。加えてハンターの減少も同時進行だ。
「現状、クマの問題は、被害が出てから罠(わな)をかける、駆除する――そんな“後手の連続”が常態化しています。現状が改善される兆候はなく、“人を襲うクマ”も急には減らないでしょう」(山内准教授)
群馬県みなかみ町に仕掛けられた箱罠 撮影:風来堂
AIカメラで出没を監視
人とクマのすみ分けも強化
だが、希望もある。
地域差が大きく、個体数の増減も場所により異なるため、データに基づいた局所的な対策はどうだろう。山内准教授が花巻市と共同で取り組んでいる試みはその好例で、AIカメラで出没を監視し、生息数がとくに多い場所に先んじて罠を配置して捕獲するという、先手必勝型の管理だ。
さらに北海道では「個体数管理」に舵(かじ)を切っている。これまでは「実害のある個体を特定して駆除する」という対応が中心だったが、出没や被害が減らないため、人との共生に向けて必要な、「具体的な捕獲目標数」を設定した。人とヒグマの空間的なすみ分けを目指す「ゾーニング管理」も強化している。
人の手が薄れ、山と里の境界が曖昧(あいまい)になりつつある今、“学習するクマ”が人間社会に入り込み始めている。これ以上人的被害を出さないために、クマが再び安心して山で暮らせる環境を取り戻すために、少しずつでも先手の対策を進めることが大切だ。
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