現在、これは、トラウマやPTSDの理解や治療に広く用いられ、その有用性が証明されています。一方で、この理論は不登校の理解にも役立つ、ということで、最近、不登校状態をこのポリヴェーガル理論で説明する人も増えてきました。

 ポリヴェーガル理論では、人間が脅威にさらされたとき、2種類の防衛反応を取る、と言います。ちなみにこの「脅威」ということですが、何を「脅威」と感ずるかは人それぞれで異なります。

 2種類の防衛反応というのは、ひとつは、「闘争/逃走反応」と言われるものです。逃げるか戦うか、という反応です。山で熊に出合ったとき、ふつうは逃げると思いますが、中には戦う人もあります。そのときに活性化するのは、交感神経系です。

 心臓は激しく高鳴り、呼吸は荒くなります。逃げたり戦ったりしやすくするためです。末梢血管は収縮します。攻撃されても出血しにくくするためです。このような反応は、皆さんもよく経験して知っていると思います。

 しかし脅威の中には、戦うことも逃げることもできないときがあります。このときに発動するのがもう1つの防衛反応、凍りつき反応です。

外に出られないのは「凍りつき反応」のせいかもしれない

 ここで働くのは、背側迷走神経系です(迷走神経とは、副交感神経の一部で、延髄(えんずい)から出ている神経ですが、延髄の背中側の核から出ている迷走神経を背側迷走神経と言い、腹側〈前方〉の核から出ている迷走神経を、腹側迷走神経と言います)。

 この反応が起きると、まず身体が動かなくなります。また意欲や思考力も損なわれます。そして自律神経系の反応ですから、自分の意志ではどうすることもできません。またいったんこの凍りつき反応が起きると、回復には長い時間がかかります。

 動物でも大変な脅威に面したとき、「死んだふり」をして難を逃れたり、人間でも強いショックを受けると、意識を失ったり、腰が抜けたりすることはよく知られる事実でしょう。