不登校の回復に必要な「安全な居場所」

 さて、そうすると不登校状態の回復とは、「凍りつき反応」の解除によってなされると言うことができますが、では「凍りつき反応」はどのようにして解除されるのか。ポリヴェーガル理論ではそれについても明快に答えを示しています。

 ポリヴェーガル理論では、「凍りつき反応」が解除されるためには、「社会交流システム」が活性化される必要があると言います。「社会交流システム」とは、人間などの生き物が、他と交流しつながるための神経系です。そしてそこに関わるのが、腹側迷走神経系です。

 ではどういうときにこの社会交流システムが活性化されるのかと言えば、「安心・安全を感じたとき」とされます。そのときに重要なのは、「近くにいる人間の声、表情、しぐさ」です。また「遊び」「一緒に食事をすること」「歌(特に高音〈女性〉の声)」も、社会交流システムの活性化に有効だと言われます。

 しかしこういうことも、私たちが不登校の子どもの回復に必要だと、経験的に学んできたこととまったく一致しています。

 不登校の子どもに必要なのは、何より安心・安全な環境ということは、不登校支援に関わるものなら誰でも経験的に知っている事実ですが、ポリヴェーガル理論の意義は、その関わりに、神経科学的な裏付けを与えたことにあります。

 実際、不登校の子どもやその親に、簡単にポリヴェーガル理論の説明をすると、とてもよく納得され、同時に休むことに対する罪悪感が軽減し、結果として回復につながっていくケースを少なからず経験しているのです。

 不登校の回復に必要なのは、何よりも、安心できる環境であり、決して傷つけられることのない安全な居場所です。

 そのような場所が確保されてはじめて、不登校の回復は始まっていきます。