一方、ヤマヨツボシオオアリは、より北のほうに暮らす多女王性だ。茨大周辺にはヤマヨツボシオオアリしかいない(1992年当時のナワヨツボシオオアリの北限は千葉県南部)。

 多女王性のコロニーの特徴は、厳しい環境で出現する傾向がある、茨城県水戸市は冬の寒さがけっこう厳しく、その当時は朽木の中で越冬するのは難しかったかもしれない。

 そうなると冬場は深い土中まで移動しなくてはならない。当然、さまざまな活動はより協力的に利他的に行なうほうがコロニー全体にとって有利になる。

 多女王性ということは、同じ巣の中で、別のオスと交尾をした女王アリも産卵するということ。

 つまり、子どもの遺伝子の近さが変わる。遺伝子の組成が変わればにおいも変わる。「においが違う!」「よそ者だ!」と排除していたら、お互い厳しい環境では生きていくことはできない。

 においの識別能力を下げ、仲間として受け入れることで、巣の中の多くの個体が生きられる。極めて近しい遺伝情報を持つ2種の違いから、遺伝要因だけでなく環境要因でも協力行動が変わるということを発見できた。

 資源が限られる厳しい環境下で、少ないものを奪い合うのではなく、みんなで協力し合い、分かち合いながら生きていくなんて、なんとけなげで柔軟で、かしこいのか!そんなアリのしたたかな戦略が僕の卒論のデータから浮き上がってきた。

 なんだかアリってすごくない!?

 初めての本格的な研究で、新たな発見を導けたのと同時に、アリの面白さを再確認することになった。

 アリは見れば見るほど、実験すればするほど発見がある。「アリの研究者」という道が僕の前に拓いていった。