クロオオアリPhoto:PIXTA

アリが専門の学者・丸山宗利、無類の虫好きでおなじみ養老孟司、寄生虫研究者・中瀬悠太の3人が昆虫の魅力を語りつくすスペシャル鼎談。「アリのコミュニケーション法は化学物質の匂いを使ったものだけではなく、音も使っているのでは」という“養老ハカセ”の疑問から話は進展していき……。本稿は、丸山宗利、養老孟司、中瀬悠太『昆虫はもっとすごい』(光文社)の一部を抜粋・編集したものです。

真っ暗な場所でのアリの
コミュニケーション方法とは?

養老 僕、ちょっとさ、昆虫同士のコミュニケーションについて疑っていることがあるんだよね。

丸山 ええっ、なんでしょう。

養老 前提の確認なんだけど、アリはほとんど目が見えないから、仲間同士のコミュニケーションは化学物質でやりとりしていると言われているでしょう?いろいろな化学物質の匂いで、敵が来たぞとか、エサをくれとかやりとりしている、と。

丸山 はい。体表炭化水素やフェロモンという、一種の匂いですね。それで仲間を認識したり、帰巣や警告といったコミュニケーションも取っていると言われています。

養老 そう。僕が疑っているのは、この化学物質でのコミュニケーション説なんだよね。これだけだと、どうも説明がつかないなと思っているんです。

丸山 と、いいますと?

養老 人間でも、香水の匂いをプンプン撒き散らしている女の人っているじゃないですか。その人が狭い部屋に入ったら、いなくなったあともなかなか匂いは消えないでしょ?ましてや、その人が部屋に居続けたらずっと匂いを嗅ぎ続けないといけない。苦行だよね。それなのに、アリの巣みたいな閉鎖された環境で節操なく「警告だ」「死体があったぞ」「仲間だ」と匂いを出しまくったら、こもって仕方がないんじゃないかと思うんだよ。いろんな匂いが混ざり合って、今受け取るべきなのはどのメッセージかわからなくなっちゃうでしょ。

 つまり、何が言いたいかというと、コミュニケーションの方法として考えられるなかでいちばん有力なのは、人間と同じく音でのやりとりじゃないか、ということ。人間は声や言葉をメインにしてコミュニケーションを取っているのに、なぜ昆虫はそうしていると考えないんだろうって。

丸山 おっしゃるとおりで、最近の研究では、実は多くの昆虫が「声」でコミュニケーションを行っているということがわかってきました。