(ゲホ!ゲホ!ゲホ!なんだこの原始的で安全性を考慮していない装置は!?)

 吸虫管をうまく操れず、蟻酸にむせながらのサンプリング。そんなこんなで、4月からひとりで2カ月くらいかけてヤマヨツボシオオアリと思われるアリを10コロニーほど集めて、佐藤さんに見せに行った。

 すると、「あー、これはムネボソアリだねぇ」と指摘……。今、これを書きながらキーボードを打つ手が震えるほど恥ずかしい。アリを研究している人間からしたら、オオアリとムネボソアリなんて間違えようがないほど違うアリなのに。何やってんだよ、4年生のときのオレ!切ないなぁ。

アリの習性を確かめるため
3000回もの実験を手作業で行う

 そんな初歩的なミスもしながらも、卒論研究では興味深い結果を得ることができた。

 ヤマヨツボシオオアリとナワヨツボシオオアリは、決して珍しい種ではない。どちらかといえば、どこにでもいるアリだ。

 ヤマヨツボシオオアリは相対的に北のほうに生息する。ひとつの巣の中に女王アリが数個体から数十個体いる「多女王性」のアリだ。

 一方のナワヨツボシオオアリは、ヤマヨツボシオオアリよりは南に生息する。こちらはひとつの巣に女王アリが1個体の「単女王性」。

 この2種は姉妹種でとても近く、見た目も行動も似ている。

 ただ、巣の仲間の識別に関してはまったく異なる。ナワヨツボシオオアリは巣が異なるとどちらかが死ぬまでケンカをするのだが、ヤマヨツボシオオアリはわりと曖昧で、巣が違ってもなんとなく受け入れてしまうケースもある。

 この違いは何か?どうしてこうした差が出るのかを明らかにするのが、卒論の研究テーマだった。そこで行なうのが「血縁識別行動実験」――それぞれコロニーが違うとどのくらいケンカをするのかを、1個体1個体対戦させる、という方法で実験をした。

 各コロニーからシャーレに1匹ずつ入れて、実体顕微鏡(対象を自然な状態で観察できる)の下でバトルをさせる。これを3000回。

 1回目の実験を終えた。教科書どおり、ナワヨツボシオオアリはほぼ間違いなく、巣が異なると死ぬほどのケンカになる(殺さないよう、組み合って30秒ほどで引き離す)。