カブトムシはよく知られた昆虫だが、天敵、生涯に産む卵の数、成虫の寿命などといった基本的な生態すら最近まで不明だったという。著者はカブトムシが発酵した餌を探す際に手掛かりにする物質の特定に成功した。本稿は、小島渉『カブトムシの謎をとく』(筑摩書房)の一部を抜粋・編集したものです。
昆虫の大きさは幼虫時に決まる
要因の1つは餌の質のバラつきか
カブトムシの成虫を野外で集めると、大きいものから小さいものまで、さまざまなサイズのものが混じっています。並べてみると、同じ種類かと疑いたくなるほど、サイズのばらつきが大きいこともあります。
なぜこのようなばらつきが生まれるのでしょうか。昆虫の体の大きさは成虫になってから変化することはなく、幼虫の時に決まってしまいます。
成虫の体の大きさにばらつきをもたらす原因として、まず考えられるのは、幼虫期の餌の質のばらつきです。体の小さい成虫は、幼虫の時にあまり栄養のある餌を食べられなかったような個体かもしれません。
たしかに、飼っている幼虫の餌替えをさぼったら、糞だらけになった腐葉土の中から極小サイズの成虫が羽化してきた、という話もよく聞きます。
質の良い餌と質の悪い餌を使って幼虫を育てた時、成虫の体の大きさにどのような違いが出るのか、飼育して実験することにしました。
同じ母親から得られた卵を、質の良い餌と質の悪い餌にランダムに振り分けました。
質の良い餌として用いたのは市販のカブトムシマットです。カブトムシマットは、広葉樹の廃材を砕いてチップにしたものに、ふすまなどを入れて発酵させることで作られます。
質の悪い餌として、クワガタムシなどの飼育のために売られているおがくず状のマットを使うことにしました。原料はカブトムシマットと同じですが、発酵があまり進んでいません。
それぞれの餌条件のもと、幼虫を1個体ずつ飼育し、糞がある程度目立ってきたら、餌を新しいものに入れ替え、餌を切らさないようにして、成虫になるまで育てました。
羽化してきた成虫のサイズの違いは一目瞭然でした。質の悪い餌から得られた成虫は、コフキコガネと見紛うほどのサイズしかなく、通常のカブトムシマットで育てた個体に比べると、体重は1/3程度しかありませんでした。
オスとメスで異なる餌の影響の受け方
体の大きさの変化はオスの方が有利に
ここまでは想定内だったのですが、興味深いことに、オスとメスで、餌の種類による影響の受け方が異なることも分かりました。
オスの体の大きさの方が、餌の状態に対しより鋭敏に反応し、極端に変化したのです。その結果、質の良い餌で育った場合は、オスの方がメスよりもずっと大きな体を持つのに対し、質の悪い餌で育った場合は、オスとメスの体の大きさはほとんど変わりませんでした。