米海軍が原子力潜水艦を中東周辺に送り込み、ロシアが潜水艦発射弾道ミサイルの発射実験を行うなど、軍事における潜水艦の重要性を改めて認識する機会が増えている。そして実のところ、日本は潜水艦を自国で設計・建造できる数少ない潜水艦建造国に数えられる。海上自衛隊の最新鋭潜水艦を駆使して任務に当たっているのは「潜水艦隊」の隊員だ。あまり国民の目に触れることはないが、潜水艦隊の隊員はどんな任務に取り組んでいるのか。防衛省出身のジャーナリストが解説する。(安全保障ジャーナリスト、セキュリティコンサルタント 吉永ケンジ)
※本記事は前後編の後編です。「潜水艦内での生活」や「年収」について解説した前編はこちらから
映画のような日々を
本当に送っている隊員たち
「沈黙の艦隊」など、たびたび映画のモチーフにも取り上げられる潜水艦。密閉された艦内で繰り広げられる見えざる敵との戦いは、沈黙と忍耐が要求されるチキンレースだ。敵と水圧の恐怖の中で生まれる乗組員の葛藤と戦友愛を描く潜水艦映画は、戦争映画とパニック映画の両方の魅力を兼ね備えているといえるだろう。
そして、こんなフィクションのような日常を本当に送っているのが、海上自衛隊(以下「海自」)潜水艦隊の隊員たちだ。潜水艦の艦種記号であるSSをもじってサイレント・サービスとも称される潜水艦隊は、隠密性と攻撃力という特性を持つ潜水艦に乗り込み、日本周辺海域の安全を守っている。
「潜水艦隊の実態」を解説する企画の後編となる本稿では、乗組員の具体的な活動に光を当てていきたい(「潜水艦内での生活」や「年収」について解説した前編はこちらから)。
約4万3000人の海上自衛官で、潜水艦隊に所属する隊員は約1800人と少ない。肉体的・精神的な適性を持つえりすぐられた隊員が、24隻の潜水艦(うち2隻は練習潜水艦)と2隻の潜水艦救難艦を運用している。
一口に潜水艦といっても、その艦種(艦船の種類のこと)は多く、よほど軍事に詳しい人でなければ、正確に説明することはできないだろう。潜水艦の艦種は一般的に、動力が原子力か否か、目的が核攻撃か否かで下表のように区分される。この区分によれば、潜水艦隊に所属する潜水艦は全て通常動力潜水艦(SS)であることがわかる。
潜水艦を保有する国は約40カ国で、自国の技術で潜水艦を建造できる国は日本を含む12カ国しかない。このことから潜水艦は、一国の技術力と経済力を象徴する存在ということができるだろう。
では、実際に潜水艦隊に所属する潜水艦と乗組員は、どのような任務に就いているのだろうか。潜水艦艦長経験者が「海中で聞いたら死刑宣告に等しい」と吐露した“音”とは――。防衛省出身の筆者が解説していく。