「ソマリアの海賊」を24時間監視する海自隊員の日常、海賊との戦い方は?恋人との電話はOK?給料にも迫る海賊対処活動のため、中東イエメンとアフリカ・ソマリアに面したアデン湾に向け出港する海上自衛隊の護衛艦「おおなみ」Photo:JIJI

海上自衛隊はかねて、ソマリア沖やアデン湾での「海賊対処行動」を粛々と行ってきた。だが、その実態は世間にあまり知られていない。そこで今回は、船上から海賊を監視し続ける隊員たちの日常を、防衛省出身のジャーナリストが解説する。船上での生活や、海賊を発見した際の対象法、そして給料事情はどうなっているのか――。(安全保障ジャーナリスト、セキュリティコンサルタント 吉永ケンジ)

※本記事は前後編の前編です。海賊の監視だけではない、海上自衛隊の「裏の任務」について徹底考察した後編はこちらから

海賊たちは本当にいる!
日本企業が襲われる例も

 映画やアニメの登場人物だと思われがちな海賊。しかし、彼らは現実世界に存在する。自由闊達に大海原を駆け巡るイメージとは裏腹に、実際は機関銃などで武装して船舶を襲い、乗組員を人質に身代金を要求する極悪非道な輩に他ならない。

 日本人にとっても他人事ではない。2011年にはアラビア海のソマリア沖で、商船三井のタンカーが海賊に襲撃される事件が起きた。この際、海賊らは自動小銃を発射しながら操舵室に押し入ったという。

 こうした海賊は、現在も世界各地に出没している。例えば、東南アジアのマラッカ海峡(マレー半島とスマトラ島の間にある海峡)や西アフリカのギニア沖などだ。

 とはいえ、国際社会が海賊たちの横暴を許すはずもなく、「海賊退治」が成功しつつあるエリアもある。商船三井が被害に遭ったソマリア沖やアデン湾周辺の海賊は、国際連合(国連)などが撲滅に注力した結果、発生数が激減している。

「ソマリアの海賊」を24時間監視する海自隊員の日常、海賊との戦い方は?恋人との電話はOK?給料にも迫るフランス海軍に“降伏”するソマリアの海賊 Photo:AFP=JIJI
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 国際海事局(IMB)の年次報告によれば、ソマリア沖やアデン湾における海賊発生数は11年に過去最多となる237件を記録したものの、12年には15件に激減。18年以降は年に0件か1件しか発生していない。

 それに一役買っているのが、日本の海上自衛隊(海自)による海賊対処行動だ。ソマリア沖やアデン湾の海賊は、1990年代初期に起こったソマリア内戦を機に出現し、問題行動を起こし始めた。これを受け、日本は09年以降、国連安全保障理事会の決議に基づいて創設された「第151連合任務群(CTG-151)」に参加し、毎年かなりの兵力を派遣してきた。

 現在の具体的な兵力は、海自の護衛艦が1隻(乗組員約200人)、哨戒機(※)が1機(航空隊約60人、支援隊約120人)となっている。

※哨戒機(しょうかいき):潜水艦などの探知や攻撃に特化した飛行機

 ただし、ソマリア沖やアデン湾では海賊発生数が「ほぼゼロ」になったものの、完全に撲滅できたわけではない。海賊が同エリアに出没するケースも稀にある。

 海賊がいつ現れるか分からず、油断が許されない状況下で、水上部隊の隊員たちはどんな生活をしているのか。また、海賊対処に携わる隊員の「知られざる給料」はどの程度なのか――。防衛省出身の筆者が解き明かしていく。