Photo by Chikara Murakami
東証スタンダード上場のANAPホールディングスで、金融業者などから借り入れた41億円が新規事業投資などの名目で提携先に支払われ、その大半が金融業者に還流した疑いのあることが取材で分かった。その結果、ANAPは巨額赤字を計上し、借入金の返済で同社財務は打撃を受けた。問題の取引を独断で実行した前社長は7月にANAPを退職し、東証スタンダード上場サイバーステップの社長に転身。ANAPと同様の金融取引を再び仕掛けている。(フリーライター 村上 力)
東証上場ANAP「41億円還流疑惑」の全貌
借金で巨額投資→資金は貸し手に逆戻り!?
アパレル事業を展開するANAPホールディングスは、2013年に大和証券を主幹事証券として東証ジャスダック(現スタンダード)に新規上場した。だが20年8月期以降、連続赤字を計上し、23年に債務超過となり実質破綻。昨年、ネットプライス事業再生合同会社などが再生スポンサーとなり、27歳の若月舞子氏が社長に就任するなど再起を図っていた。
新しいスポンサーの下で、ANAPは2つの新規事業を展開している。暗号資産とエステ事業だ。今年4月、外部から調達した資金で暗号資産のビットコインを購入する「ビットコイン財務戦略」を導入。6月には日本の株式市場で初めてビットコインを出資財産とする第三者割当増資を敢行し、市場関係者の注目を集めていた。
問題は、同じころに進行していたエステ事業である。昨年11月からANAPの経営に参画したグループから送り込まれた経営陣により、ANAPはエステサロン「エルセーヌ」関連事業に着手する。今年3月から5月にかけて、金融業者などから41億円を借り入れ、業務提携先に事業取得対価などの名目で約41億円を払い込んでいた。
ところが、エステ事業により計上された資産が瞬く間に減損処理されるなど、41億円全額が費用計上され、25年8月期は27億円もの最終赤字となった。事業再生のどさくさに紛れて、41億円ものカネが新規事業投資の名目で流出したといえる。
驚くべきことにこうした巨額投資は、今年3月から7月まで社長を務めていた人物の独断で行われ、取締役会の承認を得ていなかったという。さらに外部流出した41億円の大部分は提携先を迂回(うかい)し、ANAPに投資資金を融資した金融業者に還流していた疑いがある。大胆不敵ともいえる資金還流の一端が明るみに出つつある。
次ページで資金還流スキームの詳細手口と、これを仕掛けた前社長らグループの正体を明らかにする。







