
東証スタンダード上場のメタプラネットは、「ビットコイン財務戦略」を掲げて株価が1年で100倍に高騰したが、その裏では巧妙な金融スキームが実行されていた。ビットコインへの熱狂をあおられた一般投資家を犠牲に、関係者が巨額の利益を得る「錬金術」の実態を、特集『錬金術 暗号資産バブルの真実』の#1で初公開する。(フリーライター 村上 力)
投資家の「税制優遇」は本当か?
ビットコイン戦略の熱狂と誤解
暗号資産バブルが、日本の株式市場に押し寄せている。
東証スタンダード上場メタプラネットは、長きにわたり赤字体質で時価総額は20億円程度で推移していたが、2024年に「ビットコイン財務戦略」を導入。およそ1年で株価100倍、時価総額1兆円超えを実現させた。
ビットコイン財務戦略とは、増資や社債発行などで調達した資金でビットコイン買うというものだ。ビットコインに適正価格は存在せず、上場企業がやるべきではない投機という他ないが、投資家にはウケた。最近ではこのバブルに乗り遅れまいと、株価低迷した企業が続々とビットコイン財務戦略に打ち出している。
しかし、ビットコインは個人でも取引が可能である。なぜ上場企業がビットコイン取引をすると市場から評価されるのか。その理由として挙げられるのが、「税制優遇説」である。メタプラネットは昨年5月の適時開示で、ビットコイン財務戦略には優遇税制の利点があると主張した。
「日本の居住者に対しては、仮想通貨で実現した利益は雑所得として計算され、最高税率で50%以上に達することがあります。一方で、上場株式/証券の税環境はそれよりもかなり低く、実現株式の税率は20%です」(メタプラネットの適時開示より)
これを読むと、上場会社を介してビットコインを買った方が、最大30%もの税制メリットがあるように思えてしまう。だが、それは誤解だ。理論上、上場企業を介してビットコイン投資をするメリットはほとんどない。単純な例を用いてそれを説明しよう。
例えば、雑所得に対する税率が50%の個人が、自身の口座で価値100のビットコインを取得する。その後、価格が200になったところで売却すれば、100の売却益に課税され、税引き後の売却益は50となり、手元のお金は150になる。
一方、ビットコイン投資だけを行う上場企業の株式を1株100で取得したとする。その上場会社がビットコインを買い、上記と同様の取引を行ったとする。すると、売却益に法人税が課税される。これを35%とすると、当該上場企業の1株当たりの税引き後利益は65となり、その価値は165となる。
これを165で売却することができれば、株式売却益65に対して所得税などで20%課税され、税引き後の手元のお金は152となる。個人で取引した場合の差は1%程度である。実際には、上場企業を介した場合、ビットコイン投資とは関係ない会社の維持費なども利益から差し引かれるので、個人で取引した場合との差はもっと低くなる。
そもそも個人で50%以上の課税がされるのは年間の所得が4000万円以上の場合で、それ以下の人は自分でビットコインを買った方が税制面では得になる。これを「優遇税制」とするのは論理の飛躍と言わざるを得ない。
メタプラネット株の高騰は、こうした投資家の誤解を基に引き起こされている可能性が高い。さらにメタプラネットの株主は、同社の資本政策によるリスクに晒されている。建前上、メタプラネットの株価はビットコインと連動するはずである。ところが、最近の株価を見ると、ビットコイン相場に比して、メタプラネット株価は大幅に乱高下している。
なぜビットコイン相場から乖離するのか。株価の上昇に乗じて、同社が株価下落を招くファイナンスを実施しているからだ。虚構のビットコイン財務戦略に飛び付いた一般投資家が犠牲となる一方、米トランプ大統領の一族やファンドが巨額の利益を得る「錬金術」が浮かび上がってきた。
次ページでその全貌を明らかにする。