川崎重工が過去に請け負った火力発電所プラント工事の代金回収を巡り、18億円が使途不明となるトラブルが起きていることが分かった。背景を探ると、川崎重工の不適切な回収工作が浮き彫りになった。(フリーライター 村上 力)

川崎重工が千葉の発電所を事業譲渡
まさかの18億円消失事件の引き金に!

川崎重工東京本社Photo:JIJI

 騒動の舞台となっているのは、川崎重工の火力発電プラントを使用した千葉県の火力発電所だ。

 川崎重工は2016年から18年にかけ、大和証券やみずほフィナンシャルグループの関係会社が出資するエネルギーインフラに特化した投資ファンド、IDIインフラストラクチャーズ(IDI-I)のビークルから、新潟県長岡市、茨城県那珂市、千葉県袖ケ浦市と茂原市などの火力発電所の建設工事を請け負っていた。

 IDI-Iは発電所で生産した電力を、傘下の電力小売事業会社F-Powerに買い取らせるスキームを組んでいた。

 だが、18年ごろからF-Powerは、原油価格高騰などによる電力調達コスト急増の影響で経営が悪化。同年6月期は売り上げ1600億円に対して、営業損失が120億円と巨額赤字を計上。19年6月期も営業損失約170億円で債務超過となり、21年に破綻した。

 IDI-Iの各ビークルは、プロジェクトファイナンスにより銀行などから資金調達し、工事代金を支払っている。電力買い取り先のF-Powerの破綻は、返済原資となる火力発電所の将来キャッシュフローに疑義を呈し、IDI-Iのビークルによる資金調達に支障を来した。

 このあおりを受けたのが川崎重工である。工事を請け負った案件のうち、長岡市、那珂市の発電所は代金回収までこぎつけたものの、袖ケ浦市と茂原市の火力発電所は完工した19年ごろに信用不安が広がっており、工事代金が回収できない状況に陥った。

 未収となった工事未払い金は約200億円に上る。川崎重工の連結経常利益は400億円前後であり、損益へのインパクトは少なくない。川崎重工のエネルギー・環境プラントカンパニーの常務執行役員は、19年夏ごろから、損失を回避するための売掛金回収工作に走った。

 そこで編み出されたのが、袖ケ浦市と茂原市の火力発電所をIDI-Iのビークルから、19年10月に設立されたばかりの別法人に事業譲渡する、というものだった。

 だが、そのスキームこそが、巨額の資金消失事件を引き起こすことになる。次ページで、その詳細を明らかにする。