コメディ映画でおなじみの監督が
人間ドラマを描く

1 脇役の田中哲司と今野浩喜を見るべき『ドールハウス』

 この作品で特筆すべきは、『ウォーターボーイズ』(2001年)や『スウィングガールズ』(2004年)などのコメディ&青春映画で知られる矢口史靖(しのぶ)監督の最新作であることだ。

 コメディ要素を封印したというレビューを見た。確かにホラーであり、人間ドラマとしてシリアスな部分も多い作品である。しかし「面白い」要素が一切ないかといえばそうとも言い切れない。

 脇役ではあるが、呪禁師(じゅごんし)として颯爽と登場する田中哲司のヘタレ具合や、今野浩喜(元キングオブコメディ)の生臭坊主っぷりがとても良い。この役者だからこそ成り立つキャラであり、どこかコミカルにも感じた。作品にひと癖加える良い仕事をしている。

 また、ホラー映画には「心霊スポットに無神経に突入して痛い目に遭う若者の集団」がつきものだが、これがYouTuberなのが現代的であり、なんの違和感もなくハマっている。彼らが撮影する動画に仕掛けがあり、後で効いてくるのも良かった。

 全編を貫くのは、愛娘を失った母親の悲しい狂気と、母親の愛情を欲していたある「娘」の遺恨である。主人公の長澤まさみは、理性を保とうとしながらも崩れていく母親を好演しているし、妻を支えようと奮闘する夫役の瀬戸康史もソツがない。

 ホラーとして充分怖いのだが、子育て中の人にとって一番怖いのは、冒頭の部分だろう。その意味では、やや視聴注意である。

2 見る前はなんでこれが面白いのかと首をひねるが良くできている『8番出口』

 この作品は宣伝も多く、興行収入が50億円を突破しているので見た人も多いだろう。もともとはインディーゲームクリエイターのKOTAKE CREATE氏が制作した同名のゲーム作品であり、これを元に実写映画化された。地下鉄の通路内で「異変」を発見したら戻る、「異変」がなかったら先へ進み、正しく判断することができれば外へ出られる、というゲームである。