ホラーでよくある“タメ”は無し
中高年も楽しめる若者映画

 ホラームービーによくある仕掛けは、霊が出るぞというタメがあって観客が「来るぞ……」と覚悟を決め、そこから満を辞しての幽霊様ご登場、である。しかしこの作品ではそういったタメがほとんどなく、とにかく冒頭から景気良くゴーストが出まくる。

 こう書くとコメディのようなのだが、そうではなくて、真昼間に人ごみに紛れている幽霊はそれはそれで怖い。そして、この作品に登場する幽霊たちはモヤがかかっていてぼんやりとしている。そこだけ空気が滲んだり、歪んだりしているような感じである。

 幽霊といえば白っぽいという、王道の描かれ方とは異なるのだが、これが逆に「もしかして見える人の日常って本当はこういう感じなのかも」と思わせるリアリティがある(リアリティとはなんぞやという話ではあるが)。

 朝ドラ「あんぱん」への出演で話題になった原菜乃華を始め、non-no専属モデルの久間田琳加、カリスマインフルエンサーのなえなの、ボーイズグループ「WILD BLUE」リーダーの山下幸輝など、10代〜20代前半に人気のタレントがこぞって出演しているため、中高年は「若い子世代向けの映画」と距離を置いてしまうかもしれない。しかしそれはもったいない。

 確かに若い人向けの映画ではあるのだが、物語の舞台が高校の文化祭前の数週間であり、裏テーマとして同級生たちとひとつのプロジェクトを達成させるまでの「成長」がある。青春時代を思い出す人もいるであろうし、中高年になった今だからこそ感じる、10代の日常のかけがえのなさをスクリーンに見る人もいるだろう。

 みこのクラスメートたちが、少ない出演シーンの中でもそれぞれ個性を光らせているのもとても良い。エンディングのダンスシーンも含めて、撮影は楽しく行われたのだろうなとつい想像してしまう。中高生のお子さんがいるのであれば、親子で見ても安心の一作である。

 派手な大作の陰に隠れがちな邦画ホラーだが、ジャンルゆえの制約を逆手に取り、キャストの表現や設定の工夫で独自の世界をつくりあげている点が印象的である。大きく話題になるタイプの作品ではなくても、ふと心に残る瞬間を確かに持っている。ホラーが得意でない人でも、今年のラインナップには肩の力を抜いて楽しめる一本が見つかるかもしれない。