牧師が「ぶっ殺せ!」と叫び、高校生の反共演説が喝采を浴びる…韓国の保守派集会で起きている“価値観の崩壊”尹錫悦前韓国大統領 Photo:Bloomberg/gettyimages

2024年12月の非常戒厳令をめぐる混乱の末に罷免された尹錫悦前大統領は、「不正選挙」など根拠の乏しい主張を繰り返し、熱狂的な支持者たちが街頭で暴徒化した。国のトップと過激な支持層は、なぜ結びついたのか。現地在住のジャーナリストが、韓国民主主義の危機を報告する。※本稿は、ジャーナリストの徐 台教『分断八〇年 韓国民主主義と南北統一の限界』(集英社クリエイティブ)の一部を抜粋・編集したものです。

「ストップ・ザ・スティール」が
韓国で叫ばれる理由

「左派は北韓に帰れ!」
「アカは北に行け!」
「私はアカが死ぬほど嫌いだ!」
「皆さん、滅共という言葉を恥ずかしがらずに誇りに思ってください!」

 2025年1月25日土曜日午後、ソウル世宗大路。設置された巨大スピーカーから韓国の軍歌『滅共のたいまつ』が爆音で流れると、10車線の車道を埋めた数万の市民が一斉に立ち上がった。大きなディスプレイでは戦闘機が舞い、戦車が砂煙を上げる映像が映し出される。

 手に持った星条旗を振り、英語で「ストップ・ザ・スティール(盗み)」と書かれたプラカードを高く掲げながら、司会者のコールに従い雄叫びに近い声を上げる。

 物騒なスローガンとは対照的に、年配層を中心とする参加者たちの表情は明るい。父親に肩車をされ破顔一笑の子どもに優しげな視線が集まる様子を見ていると、ここが遊園地かと錯覚するほどだ。

 歩道では、黒ずくめの服装に身を包んだ若い男性の集団がじっと画面を見据え、時折満足そうに笑みをこぼす。この落差が、いつ爆発するかしれない、えも言われぬ不安を抱かせる。