集会では、さらに国会や司法への呪詛に近い批判も聞かれた。つまりいかなる既存の権威も認めないということだ。ならばいったい何を信じるのか。そう自問した直後、壇上から「もはやユーチューブと教会しかない!」という「啓示」があった。
集会参加者に声をかけてみた。はじめて来たという30代男性は「こんなにたくさん同じことを思う人がいて嬉しい」と感激した面持ちで述べた。
隣にいたやはり30代の男性に戒厳の是非を問うと「野党が悪い」と答えた。「それでも裁判所襲撃は問題ではないか」となおも聞くと、「あれはメディアが仕掛けたものだ」と取り付く島もなかった。
権威ある者たちが
反対勢力を口汚く罵る
クインテットという言葉がある。カルテットの次、つまり五重奏を指すものだ。
ソウル西部地裁襲撃や、尹錫悦支持集会がこれにあたる。
登場するのは極右派市民、与党政治家、SNS上のインフルエンサー、極右派教会、そして尹錫悦である。この5つの存在は互いに補い合い、社会に戒厳賛成、共産主義反対のメロディを奏でている。
集会でマイクを握るのは、インフルエンサーと極右派教会の牧師たちだ。
インフルエンサーは反フェミニズム団体の代表や、著名予備校講師など多彩な顔ぶれである。不正選挙や反共を煽り、野党政治家への人身攻撃を加える。いずれも数十万人の登録者を持つ者たちだ。
教会の牧師たちは「処断せよ!」「ぶっ殺せ!」「クソ野郎!」などと、とても牧師とは思えない言葉を連発する。いずれも教会を構える一国一城の主たちだ。こうした姿は、それぞれのユーチューブチャンネルでライブ中継される。
なお、教会の牧師がなぜ反共なのかは、韓国政府の樹立過程と関わりがある。
18世紀末にキリスト教布教が本格的に始まって以来、キリスト教教育の中心は北側だった。しかし植民地からの解放後、北側にソ連軍が進駐し、金日成の下で共産主義政権が樹立する過程で、宗教への抑圧や土地の没収を嫌う多くのキリスト教関係者が南側に逃れてきた。







