もう少しわかりやすく言い換えると、こう要約できると思う。
単にAIを使うだけでも基礎的な数学が必要だが、AIは進化するから、数学の知識や能力の必要性はどんどん高まっていく。AIをコントロールし、その力を上手に活用するために、数学の力は今後、なくてはならないものとなる。
一見すると数学の話ばかりしているが、そこにはもちろん、数学の初歩としての算数も含まれることを忘れてはいけない。
いったんまとめよう。これまでになく数学や数学的思考力が求められる時代が到来し、有識者も、そして国も、そのことを明確に意識し始めた。
この流れを受けて大学入試が変化し、そして大学を意識せざるを得ない高校が、さらには中学が、こぞって同じ方向へ舵を切った。だから中学受験が“算数偏重”になってきた、というわけだ。
考える力、すなわち算数力がなければ進学さえおぼつかない時代が、とっくの昔に始まっているということである。
「算数のセンスがないと
問題が解けない」は嘘
もしかしたら落胆した読者がおられるかもしれない。たとえば、〈うちの子は算数のセンスがないから、そんな「知識」を持つのはきっと無理〉といった具合に。実際、塾でも算数のセンスを話題にする保護者はときどきいる。
大人が言う算数の「センス」とは、問題が解ける瞬間、数学者の頭に飛来するヒラメキであり、天から降ってくる直感のことらしい。確かに歴史を繙くと、それらしいエピソードはいくらでも見つかる。
たとえば、古代ギリシアの数学者アルキメデスは、風呂に浸かった途端に難問の解法を見出した[ウィトルーウィウス『ウィトルーウィウス建築書』235頁]。
数学のみならず物理学、天文学にも通じ、「万能の人」とか「万能学者」とも呼ばれたフランスのアンリ・ポアンカレは、馬車に乗ろうと踏み台に足をかけた瞬間、数学史に残る発見をした[ポアンカレ『科学と方法』58頁]。
こんなふうに「思いついた場面」だけを取り出すと、何もないところに、まるで天使のように、不意にアイデアが舞い降りてきたような印象を受ける。







