酒井将・ベリーベスト法律事務所代表弁護士Photo by Chikara Murakami

国の集団予防接種でB型肝炎に感染した被害者への賠償が、法務省における事務処理の遅滞により大幅に減少している。その原因を法務省はひた隠しにしている。B型肝炎訴訟を日本で最も多く手掛けるベリーベスト法律事務所の酒井将代表がダイヤモンド編集部のインタビューに応じ、国の対応への憤りを語った。(フリーライター 村上力、ダイヤモンド編集部副編集長 重石岳史)

和解件数が前年の半分以下に激減
1200億円の予算が消化されない

――ダイヤモンド編集部の取材では、B型肝炎訴訟の和解件数は前年の6割程度まで減少しています。現場にどのような影響が出ていますか。

 B型肝炎訴訟を提起する患者は増加しているにもかかわらず、和解件数は激減しています。

 当所は多くのB型肝炎訴訟の依頼者を抱えており、2024年9月にも単月で最も多い和解件数を獲得していましたが、25年に入ってから状況が一変しました。夏ごろから雲行きが怪しくなり、直近の10、11月は前年の半分以下に落ち込んでしまいました。

 国はB型肝炎患者への賠償に関して、年間約1200億円の予算を確保しています。しかし、われわれの試算では現状は予算が消化されず、このペースでは、今年度は被害者の手元に届く金額が大幅に減少してしまいます。

 依頼者は増え続け、裁判所に提訴もしているのに、国側の出口が詰まっているため、案件がどんどん滞留してしまっているのです。

――なぜ、そこまで和解が遅れているのでしょうか。

 25年9月の和解期日の際、裁判所に来た法務局の担当者から「局内のシステム導入により事務処理が遅延しており、審査が遅れている」という具体的な説明がありました。

酒井弁護士によれば、国は当初、新システムの導入トラブルを認めていた。だが、事態はここから不可解な展開を見せる。法務省は突如として前言を翻し、遅延理由の開示をかたくなに拒み始めたのだ。なぜ国は、命に関わる給付金の支払いを遅らせ、その理由をひた隠しにするのか。次ページで「故意の引き伸ばし」すら疑われる異常事態について、酒井弁護士が怒りをあらわにした。