B型肝炎訴訟の上告審弁論のため最高裁に向かう原告と弁護団B型肝炎訴訟の上告審弁論のため最高裁に向かう原告と弁護団=2021年3月26日、東京都千代田区 Photo:JIJI

集団予防接種によりB型肝炎ウイルスに感染した人への国家賠償金の支払いが、今年に入り著しく滞っていることが分かった。ダイヤモンド編集部が国に情報開示請求を行ったところ、賠償金の支払件数は前年比6割程度に落ち込んでいた。法務省における事務手続きの遅れが原因で、デジタル庁主導で導入された新システムに不具合が生じた可能性がある。政府がひた隠す「DX失敗」が、B型肝炎患者に悪影響を及ぼしている。(フリーライター 村上力、ダイヤモンド編集部副編集長 重石岳史)

賠償金の支払いが前年比6割に急減
法務省の「事務処理遅滞」が元凶か

 B型肝炎は、B型肝炎ウイルスに感染することで発症する肝臓の病気で、進行すると肝硬変や肝臓がんなどを引き起こす。血液や体液を介して感染するウイルスだが、日本では国が行った集団予防接種によって感染した人が少なくとも45万人いると推定される。

 1948年から88年まで、国の集団予防接種は注射器を使い回すなどの不衛生な状態で行われていた。例えば小学校の集団予防接種で、被接種者が並ぶ行列内にB型肝炎に感染している児童が1人でもいると、その児童に使った注射器で予防接種を打たれた人は感染する可能性がある。これにより小学生の時にB型肝炎に感染し、40~50代になって肝臓に腫瘍が見つかって初めて感染が判明するケースなどがある。

 集団予防接種は拒否できず、感染者に落ち度はない。国は不衛生な状態であることを認識しながら、予防接種を行っていた。感染した被害者が89年に国家賠償請求訴訟を起こし、06年に国が敗訴。2011年に集団予防接種によるB型肝炎患者に国が賠償する「特定B型肝炎ウイルス感染者給付金等の支給に関する特別措置法」(B型肝炎特措法)が成立した。

 集団予防接種によるB型肝炎患者が賠償金を受け取るためには、個人で国賠訴訟を提起しなければならない。訴訟手続きの中で感染原因が集団予防接種と確認されれば、和解する形で賠償金を受け取れる仕組みだ。

 ところが、この賠償金の支払件数が今年に入り大幅に減少している。理由は国賠訴訟に対応する法務省内での事務手続きの遅滞だ。しかし、なぜ事務手続きの遅滞が発生しているのか。法務省はその理由をひた隠す。

 今回、ダイヤモンド編集部の取材で、デジタル庁が中心となり推し進める行政機関のDX(デジタル・トランスフォーメーション)が、現場に混乱を生じさせている疑いが浮上した。