2024年、相続と贈与のルールが静かに、しかし大きく変わった。これまで生前贈与は「亡くなる前3年間」が相続税の対象だったが、2024年からはこれが段階的に「7年間」に広がっていく。これにより、多くの家庭で“いつ贈与を始めるか”が切実なテーマになりつつある。だが、親が元気なうちから子へ資産を移すことは、簡単ではない。「自分の安心」と「子どもの幸せ」をどう両立させればいいのか――。その悩みに一つの指針を与えてくれるのが、世界的ベストセラー『DIE WITH ZERO 人生が豊かになりすぎる究極のルール』だ。(執筆:前田浩弥、企画:ダイヤモンド社書籍編集局)
Photo: Adobe Stock
生前贈与、いつから始める?
2024年1月1日を機に、贈与と相続に関する税制が大きく変わった。
それまでの税制では、生前贈与をしてから3年以内に相続が発生した場合には、その贈与は「なかったもの」とみなし、贈与した金額を足し戻して相続税の計算をしていた。通称「3年ルール」だ。
これが2024年1月1日からは、「7年ルール」へと引き延ばされた。つまり相続税の対象とならない生前贈与を行うには、「死亡する日から7年前」より前に完了させておかなければならなくなったのだ。
※なお、この「7年ルール」は2024年から一気に完全適用されるわけではなく、贈与の年ごとに持ち戻し期間が1年ずつ伸びていく“段階的な拡大”になっている。最終的に7年の全期間が適用されるのは、2027年以降の贈与分からになる。
「死亡する日から7年前」といえば、だいたいの人が元気である。自身の死の兆候を感じず、かつ資産を切り崩しながら生きているのだとしたら、いくら子どもの節税になるとはいえ、生前贈与を始めるのは勇気がいることだろう。両親から早々に「あんたに遺せる金はない」と宣言されている我が家のようなケースは別として、親は「自分の安心」と「子どもの幸せ」を天秤にかけざるを得ない状況に直面する。
子どもには、自分が死ぬ「前」に財産を与える
『DIE WITH ZERO』は、この「天秤」のバランスをどう保つかに、ひとつの指針を与えてくれる一冊だ。
「死ぬときは所持金ゼロであれ。今しかできないことに、惜しみなく金を使え」と説く『DIE WITH ZERO』は、ともすれば「残された子どものことを考えない、身勝手な生き方だ」と受け取られかねない。しかしそれは誤解である。『DIE WITH ZERO』の「ルール5 子どもには死ぬ『前』に与える」という章を読むと、著者のビル・パーキンスがこの「誤解」に、心底うんざりしている様子が見てとれる。
パーキンスは「子どもには、自分が死ぬ『前』に財産を与えればいい。子どもたちのための金を取り分け、その後で残った金を自分のために使うのが、DIE WITH ZEROという考え方だ」と自身のスタンスを簡潔に提示したうえで、「DIE WITH ZEROなんて子どものことを考えない、身勝手な生き方だ」という声に、強烈なカウンターを食らわせる。
だが、それは矛盾していないだろうか。子どもはとても大切だ。そして自分はいつ死ぬかわからない。ならば、大切な子どもたちに財産を分け与えることを、なぜそのいつになるかわからない日まで待たなければならないのか。そもそも、自分が死ぬときに子どもたち全員が生きているかどうかも保証されていないというのに。
これが相続の問題の本質だ。つまり、それは偶然に左右されすぎる。
――『DIE WITH ZERO 人生が豊かになりすぎる究極のルール』(p.116)
「死」は必然だが、「死ぬ時期」は偶然だ。そして「自分の安心」も「子どもの幸せ」もどちらも大事だ。だからこそ、偶然に身を任せるのではなく、能動的に手を打つ。これがパーキンスの推奨する、「自分の安心」と「子どもの幸せ」の天秤の保ち方である。
年末年始、久々に家族が集まるというご家庭も多いだろう。「せっかくのめでたい正月に、死と相続の話なんて……」と思うのも人情ではあるが、大事な話だからこそ、能動的に状況を動かせるうちに、チラッとでも家族で話し合ってもいいのかもしれない。
(本原稿は、『DIE WITH ZERO』(ビル・パーキンス著・児島修訳)に関連した書き下ろし記事です)
フリーライター・編集者
1983年生まれ。大学卒業後、編集プロダクション勤務、出版社勤務を経て、2016年に独立。ビジネス分野とスポーツ分野を中心に、書籍や雑誌の企画・執筆・編集に携わる。主な編集協力書籍に『リーダーは偉くない。』『今日もガッチリ資産防衛 1円でも多く「会社と社長個人」にお金を残す方法』(以上、ダイヤモンド社)『凡人でも「稼ぐ力」を最大化できる 努力の数値化』(KADOKAWA)などがある。





