世界中の長寿者たちは
みなFOXO3を持っていた
世界中のセンテナリアンを対象にした複数の調査からは、寿命を延ばす効果のありそうな遺伝子がもうひとつ明らかになった。
ここからも、私たちの戦略に役立つ可能性のある何らかの手がかりが提供される。それはFOXO3という遺伝子のバリアントで、人間の長寿に直接関連していると考えられる。
2008年にハワイ大学のブラッドリー・ウィルコックスらは、現地の日系アメリカ人を対象に健康と長寿に関して長期間の調査を行なった結果、健康長寿と長寿に強く関わる3つのSNP(1塩基多型〔遺伝子の塩基配列のうち、ひとつの塩基が他の塩基に置き換わっているもの。多型は、人口集団内に1パーセント以上の頻度で生じているバリアント〕)がFOXO3のなかで特定されたと報告した。
その後も複数の調査が実施され、他にも長寿で知られるさまざまな人口集団がFOXO3の変異を持っているらしいことが明らかになった。
カリフォルニア住民、ニューイングランド住民、デンマーク人、ドイツ人、イタリア人、フランス人、中国人、アメリカ在住のアシュケナージ系ユダヤ人など範囲は広い。そのためFOXO3は、複数の異なる民族集団や地理的領域で共有されるごく少数の長寿遺伝子のひとつとなった。
FOXO3は「転写因子」の一群に属する。転写因子には、他の遺伝子の発現を調整する働きがある。つまり遺伝子が活性化されるか抑制されるかをコントロールする。
私はこれを、細胞のメンテナンスを取り仕切る部門のように考える。責任は広大な範囲におよぶ。さまざまな細胞修復作業をこなすだけでなく、幹細胞に関与するし、他にも細胞の老廃物やがらくたの処分など、いわば家事をせっせとこなす。
ただし、モップをかけたり床を磨いたり、石膏の壁をちょっと修復するような力仕事は自分でこなさない。それはもっと特殊な遺伝子――言うなれば下請け――に任せる。FOXO3が活性化すると、細胞の健康全般を維持する働きを持つ細胞が活性化される。
他にもFOXO3は、細胞のがん化を防ぐ重要な役割も担っているようだ。







