センテナリアンの場合、環境Yで生き残るために必要なゲノムXが、正しい形で組み合わされている(おそらく行動Zに助けられている)。実験は単純ではない。長寿をまっとうするためには、遺伝子以外にもさまざまな経路が存在する可能性が高い。
寿命を伸ばす鍵は
病気を治すことではない
一部のセンテナリアンは、喫煙や飲酒など良からぬ行動を何十年も続けている。けれども普通の人たちが同じ行動を続ければ、大体は無事でいられない。
しかし「戦術」を模倣しないとしても(多くのケースは模倣すべきでない)、私たちがこれから戦略を立てるうえでセンテナリアンは参考になる。
センテナリアンのスーパーパワーは侮れない。慢性病への抵抗力が強く、発症時期を普通よりも10年か20年、場合によっては30年遅らせ、しかも健康寿命を維持できる。
こうした時間的位相のずれを、私たちは見習わなければならない。しかし医療2.0(編集部注/インターネットやデジタル技術の発展により、医療の在り方が大きく変化した段階を指す概念)は病気を抱えながら寿命を延ばすことにほとんどの精力を傾けるので、これでは実現を期待できない。すでに病気にかかってから介入するので、遅すぎるケースがほとんどだ。
『OUTLIVE(アウトリブ)人はどこまで生きられるのか:健康長寿の限界を超える科学的戦略』(ピーター・アッティア著、ビル・ギフォード著、小坂恵理訳、NHK出版)
これからは行動計画を全面的に見直し、病気が始まる時期を遅らせ、できれば予防するために努力する必要がある。病気に苦しむ期間を延長するのではなく、発病の時期を遅らせるために集中しなければならない。
そしてひとつの病気ではなく、すべての慢性病を対象にして、病気知らずで長生きすることを目標に掲げるのだ。
最後になるが、センテナリアンの秘密はひとつの言葉に集約されると私は考える。それは回復力(レジリエンス)だ。
何十年もタバコを吸い続けても、がんや心血管疾患への抵抗力があり、発症を回避することができる。食生活がひどいケースは多いが、それでも代謝の健康を理想的な状態に維持できる。
そして同年代の人たちの認知機能や身体機能がとっくに衰えても、ピンピンしている。このような回復力を私たちは養わなければならない。







