寿命を左右するFOXO3は
行動次第で操れる
ここでようやく希望が見えてきた。というのも、FOXO3は私たち自身の行動によって活性化することも、逆に抑制することもできるからだ。たとえば、栄養素が少し足りないときや運動をしているときには、FOXO3の働きは活発になる傾向がある。私たちはまさにこの状態を求めている。
FOXO3だけでなく、遺伝子の発現そのものも重要な役割を果たしていると思われるが、長寿に関して果たす役割は未だに十分に解明されていない。
ちなみにスペインのセンテナリアンの遺伝子を分析したところ、遺伝子発現のパターンがきわめて若いことがわかった。80代の対照群よりも、20代の対照群とパターンはよく似ている。
センテナリアンがこうした結果をどのように達成したのか正確にはわからないが、FOXO3と何らかの関係があるのかもしれない。あるいは、まだ知られていない何かが遺伝子の発現を左右している可能性もある。
長寿を支える遺伝子については、未だに解答よりも疑問のほうが多い。しかし少なくとも、以前より希望が見えてきた。ゲノムは不変だが、あなたの環境や行動によって遺伝子の発現にすぐにでも影響をおよぼすことはできる。
たとえば2007年に行なわれた調査によれば、定期的に運動を始めた高齢者は、半年で遺伝子の発現パターンが若返ったという。そこからは、遺伝子と環境の両方が長寿に一定の役割を果たしていることが暗示される。
要するに、健康長寿を実現するための介入では、良い遺伝子に恵まれたセンテナリアンの幸運の少なくとも一部を再現できる可能性が考えられる。
センテナリアンは、健康長寿について重要なことを教えてくれる自然実験の結果だと考えるとよい。
このような意味で、自然実験という名の実験を行なったダーウィンやメンデル――オーストリア(現チェコ)生まれの遺伝学者――は、科学者としての功績を残した。自然実験では人間のゲノムが無作為に集められ、さまざまな環境や行動にさらされる。







