アメリカのトランプ大統領アメリカのトランプ大統領 Photo:Chip Somodevilla/gettyimages

アメリカは守ってくれない
台湾で拡がる「疑米論」

 アメリカのトランプ大統領(以降、敬称略)が12月2日、台湾との関係強化につながる台湾保証実行法案に署名し、法律が成立した。法律には「交流を強化する」とは書かれていないものの、台湾では、早くも「アメリカと台湾との公的な接触の機会が増えるのでは」との期待感が拡がっている。

 一方、「寝耳に水」だった中国外務省は、高市早苗首相が国会での答弁で「存立危機事態」に言及したときと同様、すぐさま、「台湾問題は超えてはならない一線だ」と断固反対の意思を明確にした。

 詳しくは後述するが、これまで台湾とは距離を置く態度を見せてきたトランプが、台湾についてどう考えているのか、その本音は見えない。ただ、台湾からすれば、突き放したり、引き寄せたりを繰り返す気まぐれな姿勢を見れば、まだまだ全幅の信頼を置くなどできないのではないだろうか。

 そんな中、台湾で賛否が分かれているのが、近く、予備役(有事の際に動員される兵力で、台湾には160万人~200万人程度いるとされる)を召集し、中国の侵攻に備えて実施する軍事訓練の頻度が増すのではないかという問題。

 そしてもう1つが、11月26日、記者会見に臨んだ頼清徳総統が「今後8年間で防衛費などに400億米ドル(約6.2兆円)を投入する」と明らかにした点である。

 台北の日系企業に勤める藍紀堯氏は言う。

「台湾では、中国が侵攻してきた際、アメリカは台湾を守ってくれないと考えている人の割合が6割近くに上っています。いわゆる『疑米論』です。トランプは、台湾に関税を課すだけでなく、台湾が世界に誇る先端産業、半導体まで奪うのではないかと心配しているのです」

 実際、アメリカは、台湾最大の半導体メーカー、TSMCに対し、アメリカでの工場設立と人材育成を求めている。台湾市民の間で、「アメリカに最先端の半導体産業が確立されたら、台湾は用済みになって見捨てられてしまう」(前述の藍氏)と不信感が拡がるのは当然のことだ。

 台湾は今、「対中恐怖」と「対米不信」の真っただ中にある。だからこそ、「台湾は、まず台湾人で守らなければ」という意識に傾いているのだろう。