ウクライナ和平が象徴する
トランプの巧妙さ

 トランプは、日本に対しても、「我々は日本を守らなければならないが、日本は我々を守らない」と不満を口にしてきた。

 アメリカは自国の世界戦略上の利害を最優先にする国だ。トランプは輪をかけてその傾向が強い。

 台湾に関しては、「中国が攻めてきたら守ってやる」とは一言も言わず、曖昧政策を堅持してきた。また、日本についても、「自衛隊と一緒にアメリカ軍も中国軍を撃退するために戦う」などと口にしたことは一度もない。

 日本や台湾の安全保障に関するトランプの言動を見れば、「中国はアメリカ経済によって最重要」、「その中国と仲良くしないまでも喧嘩もしない状態であり続けるには、台湾問題は邪魔」と考えているように映る。

 であるなら、そんなトランプの姿勢こそが、日本にとっては「存立危機事態」に相当する由々しき問題と言えるかもしれない。

 事実、このところ新たな局面を迎えているウクライナとロシアの和平協議を見れば、トランプの巧妙さがよく分かる。

 ウクライナの地下に眠るレアアースなど鉱物資源が欲しかったトランプは4月30日、資源開発協定を結び、独自の権益を手にした。こうなればしめたものだ。その後、アメリカがウクライナに提示した和平案はロシア寄りの条件が並び、イギリスやフランスなどが強く修正を求めなければ、そのまま押し切ろうとした可能性が否定できない。

 この流れを台湾や尖閣諸島に当てはめるなら、武力で併合される台湾や領土の一部を強引に奪われる日本は、「第2のウクライナ」と化し、泣き寝入りを余儀なくされかねない。