台湾より中国とのディールを
重視するトランプの狙い

 台湾で拡がる「疑米論」や「対米不信」をよそに、トランプは、中国の習近平総書記(国家主席。以降、敬称略)のご機嫌を損ねまいと懸命だ。

 11月24日夜に行われた米中首脳電話会談で、トランプは、台湾について中国の立場を主張する習近平の話に30分も耳を傾けた挙げ句、「中国にとって台湾の重要性を理解している」と答え、会談の直後、SNSで「米中関係は極めて強固だ」と投稿するしかなかった。

 いくら関税戦争を仕掛けても、その都度、報復関税やレアアースの輸出規制といった中国の高い壁に跳ね返されてきたため、習近平とは争わない姿勢にシフトしたと考えていい。

 1期目では台湾に武器を供与し、アメリカと台湾の高官往来を促す台湾旅行法まで成立させ、2期目では、前述したように台湾保証実行法まで成立させたトランプだが、2025年7月には頼清徳氏のニューヨーク立ち寄りを思いとどまらせ、9月には台湾への4億ドル(約620億円)の軍事支援を拒否している。

 これらは、「有事の際は台湾を軍事支援する」と明言し、中国包囲網を続けたバイデン前政権とは一線を画すものだ。

 トランプは大統領就任前から「台湾が我々から半導体を盗んだ」、「守ってもらいたいなら防衛費を払え」という不満を持ち続けており、「台湾より中国とディールしたほうが得」と踏んでいるのだ。

 だとすれば、台湾が攻撃を受けてもアメリカ軍は出動しないと想定しておくべきだ。中国と台湾による戦争であれば、台湾を国家として扱わず、国交がない形の日本が参戦することもない。

 つまり、日中間でバトルになっている「存立危機事態」は起こり得ず、台湾は、日米の援護がないまま中国に飲み込まれてしまうことになる。

 ただし、もし中国が「台湾省」の一部と見ている沖縄県の尖閣諸島上陸や、南西諸島に武力攻撃を仕掛けてきたなら、その場合は、自衛隊が応戦できる「武力攻撃事態」になり、同盟国であるアメリカが日本を守ってくれるかどうかが焦点になる。