安倍元首相が漏らしていた
「アメリカは日本を守ってくれない」の現実味
「皆さん、尖閣諸島を思い浮かべてください。誰も住んでいない岩のような島を、アメリカは本気で守ってくれるでしょうか。兵士の血が流れるかもしれない危険を冒してまで助けようとしてくれるでしょうか」
これは、2022年7月6日、安倍晋三元首相が、横浜駅西口で行われた参議院選挙の応援演説で聴衆に語りかけた言葉である。安倍氏が銃弾に倒れる2日前のことだ。
筆者は目の前で演説を聞いていたが、その内容は実に的を射ている。
整理すれば、日本とアメリカの間には日米安保条約があり、第5条が日本の安全保障に関する基本条文となっている。
日本政府は、アメリカで大統領が代わるたびに、「この5条が尖閣諸島にも適用されますよね?」と確認を求め、歴代の大統領も「適用対象だ」と応じてきた。
しかし、条文をよく読むと、「自国の憲法上の規定及び手続きに従って…」と書かれてある。アメリカ合衆国の憲法では、開戦の決定権は連邦議会にあると定めているため、議会で承認されない限り、アメリカ軍が日本のために戦うことはできない。
現実問題として、アメリカ国内で、日本を防衛するためにアメリカ軍を派遣して中国軍と戦うことへのコンセンサスは得にくい。
当然ながら、アメリカ政府やアメリカ国民は、「日本の領土を防衛するのは日本人自身」と考えるだろうし、「適用対象だが、中国軍と戦うまでには…」となった場合、「議会の承認が得られない」を口実にすることだってあり得る。
同じ第5条でも、NATO条約であれば、たとえ岩のような島でも条約締結国の領土が攻撃された場合、全ての締約国が「防衛義務」を発動し支援することになるが、台湾や日本の場合、「いざとなればアメリカが助けてくれる」というのは都合のいい願望にすぎない。
その意味では、高市首相が師と仰いできた安倍氏は、日本の政治家の中でもっとも安保条約の脆弱(ぜいじゃく)さ、言い換えるなら欠陥に気づいていた政治家だったと言えるだろう。







