(3)借金返済は苦しいが、残したい財産がある場合は「限定承認」
中村:最後に、三つ目は「限定承認」です。故人の残したプラスの財産の範囲内で、マイナスの財産(借金)を弁済し、プラスの財産が残れば取得してマイナスの財産が多ければ債務を免れるという手続きです。
相続放棄と同様に家庭裁判所に申し立てる必要があります。限定承認は「借金の返済は苦しいが、どうしても残したい財産がある」というケースなどで有効であり、先買権という権利もありますので、自宅評価額である約500万円を用意できるのであればたとえ負債が多くても、先買権を行使して自宅のみ残すことも可能です。
一見すると一番使い勝手の良さそうな手続きと感じますが、手続きが大変複雑で弁護士等の専門職に依頼するとかえって費用が高くなってしまったり、税金が高くなってしまったりすることもあります。全国的に見ても限定承認は利用者がとても少ない選択肢であり注意が必要です。
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家族が協力しあって
相続の危機を乗り越えることが大切
家を残すか、借金も放棄する代わりに家も失うか。
美枝子さんと隆志さんは相続放棄の期限が迫っており、弁護士に相談を重ねた結果、2人とも「相続放棄」を決断しました。相続放棄の手続きが完了した後、自宅は次順位の相続人が存在しなければ債権者(信用金庫)が相続財産清算人等を選任し、売却等の清算をされることになります。
美枝子さんは住む場所を失うことになりましたが、家族の絆がここで力を発揮しました。
隆志さん一家は美枝子さんを自分たちの都内のマンションに迎え入れ、二世帯で同居するという決断を下したのです。美枝子さんは思い出の家を失ったものの、孫と暮らせるようになり笑顔を取り戻しました。隆志さん一家も、美枝子さんが孫の面倒を見てくれることになり、育児の負担を減らせるようになりました。
借金は打ち明けにくいことだが
早めに伝えて計画的に終活を
相続の現場を多く経験している中村弁護士は、こう続けます。
「生前に、借金の存在を包み隠さず話してくれたら、と思うようなケースは多いです。事業の借金以外に、ギャンブルなどの浪費を家族に話せないまま亡くなり、驚くほど高額の借金が残されていることも少なくありません。借金は打ち明けにくいことですが、相続開始前であれば破産手続きなど取りうる手段もありますので、できる限り早めに打ち明けて、計画的に終活を進めることが大切です」
「また今回のようなケースでは、隆志さん一家が美枝子さんを受け入れられる環境だったため、相続放棄を選択できました。家族仲が悪かったら、こうした決断は難しかったでしょう。相続で深刻な問題に直面しても、家族仲で乗り越えられることは非常に多く、良好な家族関係は何ものにも代え難い大きな財産であるといえます。生前から良好な家族関係を作っておけるようにしたいですね」
※プライバシー保護のため、登場人物に関する情報の一部を変更しています。
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