“掛け算”が生む、自分だけのポジション
もう一つ、菅藤さんが大事にしているのが“掛け合わせ”です。
「私はAIの技術と、人前で話したり発信したりする力を掛け合わせて仕事をしています。AIのエンジニアは技術に特化した人が多く、人前で話す機会は一部の人を除いて少ない印象です。だからこそ、『AIも分かるし、人前でも話せる』という組み合わせだけで、シンポジウムや講演の場に呼んでいただけることが最近では増えました」
これは、楽器演奏の世界から離れた人が教える立場に回って活躍すること、スポーツ経験者が営業職でチームワークや粘り強さを生かすことなどにも当てはまります。
「楽器演奏 × 教える力」「スポーツ × 営業スキル」「趣味 × 情報発信力」――。
一つひとつは特別に見えなくても、掛け合わせ方次第で、誰にも真似できないポジションになり得るのかなと思います。
「『3歳からピアノをやってきた』『親の仕事の事情で海外暮らしが長くて3か国語に堪能』といった、いわゆる“王道の英才教育”を受けていない人でも、20歳を過ぎてから“ニッチをつくること”は十分にできます。『車庫入れが天才的に上手』『クッキー作りならプロ級』『初対面の人と名前を確実に覚えられる』『ガソリンスタンド事情に異様に詳しい』――そんなレベル感こそ最適だと思うんです」
大事なのは、「自分はここを突き詰めた」と胸を張って言える経験を一つつくること。ここで大事なのは、実際にその分野で本当にトップであるかどうかはどうでも良くて、ある種、根拠のない自信です。
そこから、他の分野への自信や挑戦心がじわじわと広がっていく、と菅藤さんは言います。
図形問題は、“自分が戦える場所”を見つけるための実験場
偏差値という一つの物差しで世界を見れば、上には必ず“化け物級のエリート”がいます。
けれど、世界を細かく切り分けてみれば、「ここだけは自分のほうが好き」「ここだけは自分のほうがやり込んでいる」と言えるニッチはいくつも見つかるはずです。
図形の世界は、その練習にぴったりの小さな実験場です。
最初はまったく歯が立たなかった灘・開成レベルの問題も、補助線一本で急に見え方が変わる。
「全部の科目で一番じゃなくていい。でも、この小さな世界の中では、自分もけっこう戦えるかもしれない」
――そんな感覚を、子どもも大人も、安全な紙の上で何度でも試すことができるのです。
manavigate株式会社 取締役/DeNA AIプロダクトマネージャー/株式会社東京産業新聞社 取締役
1994年生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒。
中学受験を経て洛星中学に入学。慶應義塾大学卒業後、新卒で有限会社未来検索ブラジルに入社し、2021年にmanavigate株式会社を立ち上げる。
その後、DeNAのAIプロダクトマネージャー兼AIエンジニアとして、「AIで世の中の働きかたを変える」べく奔走している。
また、自身が運営する算数入試問題を解説するYouTubeチャンネル「まなびスクエア」は、開設から1年で登録者数4万人を突破。
2025年10月の時点で874問を解説し、登録者数は8.41万人に達している。









