「経営学の父」と呼ばれるのは誰か、あなたは即答できますか?
その名は――ピーター・ドラッカー。
彼が残した言葉は、時代を越えて世界中の経営者やビジネスパーソンの指針となっています。なぜ没後20年近く経った今も、ドラッカーは読み継がれ続けるのか。
『かの光源氏がドラッカーをお読みになり、マネジメントをなさったら』の著者である吉田麻子氏に、現代にこそ響くドラッカーのメッセージを伺いました。(構成/ダイヤモンド社書籍編集局 吉田瑞希)

優秀なリーダーは1on1で“伝えない”。では何をする?Photo: Adobe Stock

1on1は「問う場」

――ドラッカーの定義でいうと、1on1はどのように実施するのが効果的でしょうか?

吉田麻子(以下、吉田):ドラッカー的な1on1は「伝える場」ではなく、「問う場」ではないかと考えます。

ドラッカーは『経営者の条件』の中で、コミュニケーションの本質について次のように述べています。

「コミュニケーションは下方への関係において行われるかぎり事実上不可能である。このことは、知覚についての研究が明らかにしたところである。上司が部下に何かをいおうと努力するほど、かえって部下が聞き違える危険は大きくなる。部下は、上司がいうことではなく、自分が聞きたいことを聞き取る。
ところが仕事において貢献する者は、部下たちが貢献すべきことを要求する。
『組織、および上司である私は、あなたに対しどのような貢献の責任を期待すべきか』
『あなたに期待すべきことは何か』
『あなたの知識や能力を最もよく活用できる道は何か』
を聞く。
こうして初めてコミュニケーションが可能となり容易となる」

そしてドラッカーはこう続けています。

「その結果、まず部下が、『自分はどのような貢献を期待されるべきか』を考えるようになる。そこで初めて、上司の側に、部下の考える貢献についてその有効性を判断する権限と責任が生じる」

ドラッカー的1on1は「問い」から始まる

吉田:ここでドラッカーが示唆していることは、非常にシンプルです。

上司が一方的に“伝える”のではなく、部下が“考える”場を設計せよ、ということです。

だからこそ、1on1は以下のような質問から始めてはいかがでしょうか。

・「あなたがもっとも貢献できる領域はどこですか?」
・「今の仕事で、あなたの強みはどう活かせていますか?」
・「役割のどの部分を伸ばしたいですか?」
・「チームや顧客に、どんな変化をもたらしたいですか?」

1on1の目的は、上司が評価コメントを伝えることだけではなく、部下が“自分の貢献”を言語化することにあります

なぜ“問い”が重要なのか?

吉田:上司がどれだけ説明しても、部下は「自分が聞きたいことだけ」を聞き取る――ドラッカーはこの人間の性質を冷静に指摘しています。

だからこそ、1on1では、
・評価よりも
・指示よりも
・アドバイスよりも
「問い」が効果的なのです。

問いによって、部下は初めて「自分はどんな貢献を期待されているのか?」を自分の言葉で考え始めます

これこそが、ドラッカーのいう「コミュニケーションが成立する瞬間」なのではないでしょうか。

ドラッカー的1on1の正しい姿

◻︎一方通行のフィードバックではなく、“対話による関係構築”
◻︎目的は“評価”ではなく、“部下の貢献を明確にすること”
◻︎スタートは、「何を伝えるか」ではなく、「何を問うか」

質問から始まる1on1は、部下の成長と組織の成果を力強くつなげる手法なのかもしれません。