シンガポール国立大学(NUS)リー・クアンユー公共政策大学院の「アジア地政学プログラム」は、日本や東南アジアで活躍するビジネスリーダーや官僚などが多数参加する超人気講座。同講座を主宰する田村耕太郎氏の最新刊、君はなぜ学ばないのか?』(ダイヤモンド社)は、その人気講座のエッセンスと精神を凝縮した一冊。私たちは今、世界が大きく変わろうとする歴史的な大転換点に直面しています。激変の時代を生き抜くために不可欠な「学び」とは何か? 本連載では、この激変の時代を楽しく幸せにたくましく生き抜くためのマインドセットと、具体的な学びの内容について、同書から抜粋・編集してお届けします。

「お金持ち」と「時間持ち」では、どちらが豊かなのか?Photo: Adobe Stock

国会議員の仕事は「座っている」こと

 特に、政治経験がない他業界から志だけで政界入りした人たちは、まさか日本の国会議員が、あんな無駄な時間の使い方をしているなどとは、微塵も思っていなかっただろう。

 私も初当選後、意気揚々と国会に向かったが、まずはいろいろな現実にぶつかった。

 委員会は希望通り財政金融委員会に入れたが、与党の質問時間は当たり前に短い。

 ある日、いきなり当選直後に質問の機会が回ってきた。理事だった林芳正さんが「田村さんは金融機関出身だったよね。じゃあ明日30分やって」と直電が来たのだ。

 それは、メガバンクの頭取全員を呼んでの委員会だった。公的資金注入とかの議論をやっていたころの話だ。そうしたら、私が野党のような質問をしたので、テレビで大々的に放送されたが、与党からは叱られた。

 テレビ中継入りの予算委員会での対総理質問は、なかなか回ってこない。でも結局、与党の議員からなる政府提案の法案や予算を、そもそも与党議員が質問してどうこうできるわけでもなかった。

 自分の所属する委員会でも与党の議員は、あまり質問できないので、野党の質問を聞くためにずっとそこに座っている。

 日本の国会は定足数というのがあり、質問と関係ない議員も定足数を満たすために議席に座っていないといけないのだ。誰かがトイレに行くと、トイレにも行けない。その間に先輩のところに陳情が来ると、陳情が終わるまで、私が座っているという感じだ。

 国会議員の仕事は、「座っている」ことなのだ。

 野党の質問を聞くためだけに座るわけだが、もちろん素晴らしい質疑もあり勉強になったが、スキャンダル追及や疑わしい持論を繰り返す議員の、内容のない繰り返しの質問を何時間も聞かされる場合もあり、かなりきつかった。

 あまりにつまらないから寝るしかないのだが、そうすると、週刊誌が待ってましたとばかりに写真撮影をする。

 本会議も、書いてあることをただ読み上げるだけの儀式。こんなの皆で集まって座って聞いて、そこから賛成ボタンを押すだけだ。そのために窮屈な議席にひたすら座っているのだ。

「これを何年やるのか」と途方にくれた。

 しかし、ひな壇をみると総理から閣僚全員がそれを同じように聞いて座っている。閣僚は委員会にも出て、しかも繰り返しの同じ質問に答えている。一日おきに衆議院と参議院の委員会に一日中座って、本会議にも出て、その合間に役所に帰って仕事をするわけだ。

 あの小泉純一郎さんでも、麻生太郎さんでも、初当選から総理になるまでに29年もかかっている。

 カバー領域が広い厚生労働大臣なんて、ずっと委員会にいて、本会議にいて、その間にレクチャーを受けて、深夜、早朝しか役所の仕事はできないと言っていた。

 権力争いから国会対応、レクチャー受けからメディア対応まで切りがない総理なんて、国のことを真剣に想う時間が、一瞬でもあるのだろうかと考えた。

「忙し自慢」で出番を待つだけで、老いていく

 それでも、夜も早朝も、政局や情報や資金集めの会合が入ってしまう。

 ヒラの私でも当時、会食は「二階建て」「三階建て」といって、派閥、地元、同僚とかと一日で和食、中華、イタリアンなど3回ほど中座を繰り返しながら、会食していた。当然、帰宅するのは、25時とかになる。

 政治家皆が、儀式のために与野党互いに、閣僚も含めて「時間貧乏」になり、「忙し自慢」で自分を慰め、その合間に政局という権力争いを仕掛けていく。

 あんな時間の使い方をしていたら、家族とも会えないし、自分の志はどこかにいってしまう。勉強する時間もあまり持てない。

 先輩に愚痴ると「俺もそれをやってきたんだから、お前もやるのは当たり前だ」という。

 青雲の志も、あっという間に国会や党の時間効率の悪い儀式にからめとられ、時間貧乏になり、何も考えず「忙し自慢」で出番を待つだけで、老いていくだけだ。

時間貧乏になるだけの国会という仕組み

 政治家だけではなく、官僚も時間貧乏だ。国会議員と閣僚の質問と答弁作成で擦り切れていく。官僚のそもそもの仕事である国家戦略創りどころか、そのための勉強の時間さえ確保できない。

 こんな時間貧乏が国の将来とかつくれるわけがない、だろう。

 政策も大事だが、議員も閣僚も官僚もセレモニーだけで擦り切れて時間貧乏になるだけという国会という仕組みを変えていかないと、すべては本末転倒な気がする。

 時間貧乏は、人生最大の敗者だと思う。

 お金より時間は大事で、お金貧乏のほうがましだろう。

(本稿は君はなぜ学ばないのか?の一部を抜粋・編集したものです)

田村耕太郎(たむら・こうたろう)
シンガポール国立大学リー・クアンユー公共政策大学院 兼任教授、カリフォルニア大学サンディエゴ校グローバル・リーダーシップ・インスティテュート フェロー、一橋ビジネススクール 客員教授(2022~2026年)。元参議院議員。早稲田大学卒業後、慶應義塾大学大学院(MBA)、デューク大学法律大学院、イェール大学大学院修了。オックスフォード大学AMPおよび東京大学EMP修了。山一證券にてM&A仲介業務に従事。米国留学を経て大阪日日新聞社社長。2002年に初当選し、2010年まで参議院議員。第一次安倍内閣で内閣府大臣政務官(経済・財政、金融、再チャレンジ、地方分権)を務めた。
2010年イェール大学フェロー、2011年ハーバード大学リサーチアソシエイト、世界で最も多くのノーベル賞受賞者(29名)を輩出したシンクタンク「ランド研究所」で当時唯一の日本人研究員となる。2012年、日本人政治家で初めてハーバードビジネススクールのケース(事例)の主人公となる。ミルケン・インスティテュート 前アジアフェロー。
2014年より、シンガポール国立大学リー・クアンユー公共政策大学院兼任教授としてビジネスパーソン向け「アジア地政学プログラム」を運営し、25期にわたり600名を超えるビジネスリーダーたちが修了。2022年よりカリフォルニア大学サンディエゴ校においても「アメリカ地政学プログラム」を主宰。
CNBCコメンテーター、世界最大のインド系インターナショナルスクールGIISのアドバイザリー・ボードメンバー。米国、シンガポール、イスラエル、アフリカのベンチャーキャピタルのリミテッド・パートナーを務める。OpenAI、Scale AI、SpaceX、Neuralink等、70社以上の世界のテクノロジースタートアップに投資する個人投資家でもある。シリーズ累計91万部突破のベストセラー『頭に来てもアホとは戦うな!』など著書多数。