AIが「使えるかどうか」は、人間側の「使い方」で決まります。
そう語るのは、グーグル、マイクロソフト、NTTドコモ、富士通、KDDIなどを含む600社以上、のべ2万人以上に思考・発想の研修をしてきた石井力重氏だ。そのノウハウをAIで誰でも実践できる方法をまとめた書籍『AIを使って考えるための全技術』が発売。全680ページ、2700円のいわゆる“鈍器本”ながら、「AIと、こうやって対話すればいいのか!」「値段の100倍の価値はある!」との声もあり話題になっている。思考・発想のベストセラー『考具』著者の加藤昌治氏も全面監修として協力し、「これを使えば誰でも“考える”ことの天才になれる」と太鼓判を押した同書から、AIの便利な使い方を紹介しよう。(構成/ダイヤモンド社・石井一穂)
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「効率化」「自動化」だけじゃ、もったいない
AIを仕事に活用できるシーンは多々ありますが、業務の効率化や自動化だけに使うのは少々もったいない。
新しいアイデアを考えたり、問題解決をしたりといった、「頭を使う作業」にもAIは活用できます。
ただし、適当な聞き方をしても、質の良い回答は得られません。ロクでもない回答が返ってきてしまうときには、人間側の質問(プロンプト)が適切でないことがほとんどなのです。
AIを使って「悩みの解決策」を考える方法
たとえば、モヤモヤする漠然とした悩みを整理したいときにおすすめの聞き方があります。
それが、『AIを使って考えるための全技術』で紹介されている技法その44「悩みの分割」です。こちらが、そのプロンプトです。
複雑な問題や悩みからアイデア創出のお題を作りたいです。具体的には〈悩みを記入〉をより考えやすくするために少しずらしたお題を複数生成してください。
考えやすいお題にするには、「時間(季節、曜日、時間帯、状況等)で分けて特定のときに特化したお題にする」「空間(場所、部屋、部分、部位等)で分けて特定のところに限定したお題にする」「条件(制約条件、物理特性、天候条件、その他の要素)がシンプルになる状況に限定したお題にする」の3つのずらし方が役に立ちます。
――『AIを使って考えるための全技術』(496ページ)より
「モヤモヤするけど、どうしたらいいかわからない…」なんてこと、ないでしょうか?
この状態、非常に困惑しますよね。なぜなら解決策を考えるとっかかりとなるようなヒントがないから。単なる「悩み」の状態であって、考える対象となる「お題」とは言えない状態です。
こんなときは、漠然とした「悩み」を考えやすい「お題」に変えるアプローチが必要です。
その1つが「分割」です。
漠然かつ複雑な悩みは、AIを使って要素に分けることで単純化して考えやすくなります。
「上司と仲が悪い」の解決策を考えてみよう
この技法を使って、実践してみましょう。
ここでは「上司との関係性が悪い」を例に実践してみます。
複雑な問題や悩みからアイデア創出のお題を作りたいです。具体的には〈上司とあまり仲がよくない〉をより考えやすくするために少しずらしたお題を複数生成してください。
考えやすいお題にするには、「時間(季節、曜日、時間帯、状況等)で分けて特定のときに特化したお題にする」「空間(場所、部屋、部分、部位等)で分けて特定のところに限定したお題にする」「条件(制約条件、物理特性、天候条件、その他の要素)がシンプルになる状況に限定したお題にする」の3つのずらし方が役に立ちます。
さて、技法「悩みの分割」によって、AIはどのようなアイデアを出してくるのでしょうか。
〈上司とあまり仲がよくない〉という複雑で抽象的な悩みを、より“考えやすい創造的なお題”に変換するための「ずらしの技法」を使い、時間・空間・条件の3軸から複数パターンのお題を生成します。
1.時間でずらす(特定の季節・時間帯・状況に限定する)
・春の異動直後、上司と初めて1対1で話すときにどう関係をつくる?
抽象的な関係改善ではなく「初回の接点」に限定することで考えやすく。
・月曜の朝、上司との最初の会話をポジティブにするには?
日常の“開始時点”だけに焦点を絞る。
・締切前日の夕方、上司と摩擦が起きにくい伝え方は?
緊張が起こりやすい局面に限定。
・金曜の退勤時間、上司と気まずくならないコミュニケーションは?
リラックスモードの時間に寄せて考える。
・繁忙期(決算月)だけ使える「摩擦を減らす工夫」を考える
ハイストレス期に限定することで意味が明確になる。
2.空間でずらす(状況・場所・物理的な範囲を限定)
・オフィスの給湯スペースで上司と自然に話せる仕掛けは?
雑談が生まれやすい“場所”に絞る。
・会議室の“入室~5分間”に関係が悪化しないルールを作るなら?
範囲を極端に狭くすることで思考が具体化する。
・オンライン会議の前後30秒だけで上司との距離を縮める方法は?
空間がデジタルに限定されることで考えやすい。
・部署フロアの「通路」で行き違いが減るコミュニケーションとは?
接触時間が短い場所に特化。
・上司の席の“半径2メートル以内”での衝突を避けるアイデアは?
物理的距離を制約にすることで新しい発想を誘発。
3.条件でずらす(制約・特性を明確にしてシンプル化)
・上司が“忙しすぎて話を聞けない”という前提で改善策を考える
条件を明文化することで解決策が出しやすくなる。
・上司が「メールは読むが会話は苦手」という設定なら?
コミュニケーション手段を限定。
・直接話せないときに、上司の意図を正しく把握する方法は?
制約を設けると選択肢が絞られる。
・相手が“短い言葉しか返さないタイプ”という条件なら?
相手側の行動特性に合わせて思考が深まる。
・こちらが“一切お願い事ができない日”に関係を悪化させない工夫は?
制約が強いほどアイデア創出が活性化。
まとめ:ずらしによってお題はこう変わる
・「上司と仲が悪い」→抽象・広すぎる
・「月曜朝だけの関係改善」→具体化
・「オンライン会議前後30秒だけ」→限定化
・「上司が会話苦手という条件つき」→解決しやすい
この“範囲縮小”が、アイデア創出の認知負荷を一気に下げるポイントです。
いくつか非常に“問題の切り出し方が巧い”お題があり、思わず唸りました。
「オンライン会議の前後30秒だけで、上司との距離を縮める方法は?」
これは秀逸ですね。
人間関係の課題は往々にして抽象化しがちですが、“30秒”という極端な制約を設けたことで、解決策の創出に必要な認知負荷が大幅に下がっています。
また、オンライン時代の実務にも即しており、再現性が高い“小さな改善”を積み上げるアプローチとして実用性が高いと感じました。
「会議室の“入室~5分間”に関係が悪化しないルールを作るなら?」
この発想も的確です。
多くの摩擦は“会議そのもの”ではなく、「場の立ち上がりの空気」に起因することが多い。
そこにお題を限定することで、抽象的な人間関係が、“場の設計”という扱いやすい問題構造に変換されている点が優れています。
「上司が会話ではなくメールだけ得意、という条件で考える」
これも非常に本質的ですね。
人物そのものを変えようとするのではなく、“特性を前提として扱う”という構造思考に変わっている。
条件を固定することで、コミュニケーション改善が“性格”の問題から“手段の最適化”へと明確に変換され、ここにアイデア創出の余地が広く生まれているのが良いところだと思います。
いずれのお題も、「状況を限定し、問題の粒度を下げることで“手が動く状態”に変換する」という点で非常に優れています。
複雑な人間関係の悩みを、ここまで“考えやすいお題”に落とし込めたのは見事と言えるのではないでしょうか。
技法その44「悩みの分割」、ぜひ活用してみてください。
(本稿は、書籍『AIを使って考えるための全技術』の内容を一部抜粋・編集して作成した記事です。この他にも書籍では、AIを使って思考の質を高める56の方法を紹介しています)








