「それは違うでしょ……」――部下の言動に対して、このように感じることは誰にでもあるでしょう。そして、「この人のために、きちんと指導しなければ……」と、“親心”からアドバイスをしようとしますが、そこで一瞬立ち止まる必要があります。その“親心”が部下を潰す可能性があるからです。どういうことなのか? どうしたらよいのか? この記事では、新刊『なぜ、あなたのチームは疲れているのか?』から抜粋しながら、このような場面での上司の対応方法をお伝えします。
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まず、「否定」せずに受け止める
「いや、それは違う」
リーダーとして仕事をしていると、メンバーの言動に対して否定したくなる瞬間があります。そして、メンバーの成長を促すためには、一言注意を与えるべきだと考えるのは、リーダーとしての「優しさ」と考えたくなるかもしれません。
しかし、こんなときには要注意です。
たとえそれがリーダーからすれば“親心”であったとしても、不用意に注意したり、指導したりすると、メンバーの心理的リソースを大きく損ねる可能性があるからです。
なぜか。それは、リーダーが見ている世界と、メンバーが見ている世界は必ずしも同じではないからです。いや、ほぼ間違いなく、両者が見ている世界は違うのです。
だから、メンバーの言動に対して「それは違う」と思ったときには、すぐに注意するのではなく、まずは、メンバーがどんな世界を見ているのかを知ることから始める必要があるのです。
中村課長の「反省」
私の知人の中村課長の「反省」を紹介しましょう。
営業チームを率いる中村課長は、中途入社の尾崎さんの様子が気になっていました。
経験豊富で即戦力として期待されていたのに、入社して数ヶ月が経つころには、表情が曇り、会話も減り、疲れた様子を見せることが増えていたからです。
ある日の帰り際、中村課長は尾崎さんに声をかけました。
「最近、ちょっと元気がないように見えるけど、何かあった?」
尾崎さんは少し迷ったあと、勇気を出して打ち明けました。
「実は……訪問件数を増やすのに苦戦していて。アポを取るのがどうしても苦手で、動けなくなってしまうんです」
中村課長は、ピンときました。
というのは、中村さんの営業チームでは、営業成績を上げるために、一人ひとりの営業マンに「訪問件数」の目標数値を設定していたからです。どうやら、それが重荷だと尾崎さんは言いたいようなのです。
これに対して、中村課長は瞬間的に否定的な気持ちが湧き起こり、思わずこんな言葉を漏らしてしまいました。「そうは言っても、訪問件数を増やさなければ、売上は伸びないですからね。気持ちはわかるけど、営業はまず数を打たなければ始まりませんよ。とにかく今は件数を増やすことに集中しましょう」
「……はい」
そう尾崎さんは答えましたが、それ以降、中村課長が話しかけても、尾崎さんの態度はどこかよそよそしく、心を閉ざしているように感じられました。そして、言われたとおりに訪問件数を増やそうと努力はしているようでしたが、なかなか成果は上がらず、尾崎さんはますます塞ぎ込むようになってしまったのです。
自分には見えない「相手の世界」を探る
このままではまずい……。
中村課長は、そんな尾崎さんの様子に危機感を覚えるようになりました。
直属の上司である営業部長からも、「尾崎さんは前職では、ものすごい営業成績を上げていたのに、どうしてダメなんだ? 君は、一体どんな指導をしているんだ?」とプレッシャーをかけられる始末でした。
そして、「あのとき、彼は『訪問件数を増やすのが重荷だ』と訴えたのに、それを否定して、『件数を増やすことに集中しよう』と押し切ったのは大失敗だったのかもしれない……もっと彼の話を聞くべきだった……」と考えるようになりました。
そこで中村課長は、もう一度じっくり尾崎さんと向き合うことにしました。



