「構想力・イノベーション講座」(運営Aoba-BBT)の人気講師で、シンガポールを拠点に活躍する戦略コンサルタント坂田幸樹氏の最新刊『戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』(ダイヤモンド社)は、新規事業の立案や自社の課題解決に役立つ戦略の立て方をわかりやすく解説する入門書。企業とユーザーが共同で価値を生み出していく「場づくり」が重視される現在、どうすれば価値ある戦略をつくることができるのか? 本連載では、同書の内容をベースに坂田氏の書き下ろしの記事をお届けする。
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とりコン学生は増えるが、
コンサル業界の「前提」は変わっている
近年、海外のコンサルティングファームでは大規模な人員削減が相次いでいますが、日本では様子が異なります。
国内のファームの中には、新卒採用を大幅に増やしている企業もあり、数百人規模で採用を行う大手もあります。
高給で、若いうちから責任ある仕事を任されるというイメージがあり、さらに「つぶしが効く」キャリアとして、コンサルタントに学生からの人気が高まるのは理解できます。
しかし、とりあえずコンサルを目指す、いわゆる“とりコン学生”こそ、業界構造がAIによって根本から変わりつつある現実を知っておくべきです。
AIで若手の仕事が激変
かつての若手コンサルタントの仕事といえば、リサーチ、議事録作成、資料づくり、モデル構築など、いわゆる左脳系のタスクが中心でした。
たとえば、私が新人だった頃は、SpeedaやCapital IQのような金融情報プラットフォームも整っておらず、紙の有価証券報告書を隅々まで読み込み、Excelに手入力して財務モデルを組むという手間のかかる作業が必要でした。
現在では、これらの業務の多くがAIに置き換えられつつあります。
その結果、かつては「型」を身につけるために不可欠だった泥臭い経験のプロセスが、急速に失われつつあるのです。
とりコン学生が誤解しがちな3つのこと
誤解1:ロジカルでさえあれば、戦える
論理的思考は今の時代にも必要ですが、AIが論理整理を代替する時代において、差がつくのは「問いの質」や「仮説の独自性」です。現場での経験や直感に基づいた、観察力が重視されるようになっています。
誤解2:資料づくりが得意なら、評価される
スライド作成はAIによって急速に自動化が進んでいます。だからこそ、資料の見た目ではなく、そこに込める意図やメッセージの構造が問われる時代になっています。今後評価されるのは、「人を動かすメッセージの設計力」や「クライアントとの信頼関係を築く力」です。
誤解3:コンサルに入れば、市場価値は自然に上がる
AIに代替されやすい業務ばかりを続けていると、経験の幅が広がらず、意思決定の質も磨かれないまま、市場価値はむしろ下がってしまうリスクがあります。これからの評価基準は、「不確実な状況で意思決定を導く力」や「物事を批判的に見られる力」へとシフトしています。
とりコンは悪くないが、
思考停止のままでは危険
誤解してほしくないのは、コンサル業界が若手にとって今なお非常に魅力的な成長環境であることです。
ただし、AIが高度に発展した現代においては、「右脳力」「仮説力」「人間力」といった資質が、より早期に問われるようになっています。
「とりあえず入る」のではなく、「自分は何を武器にできるか」を見極めて会社を選び、その中でどのように成長していくかを戦略的に設計する必要があります。
とりコンであっても、自分固有の強みを軸に成長の道筋を描ければ、どの環境でも価値を発揮できるはずです。
『戦略のデザイン』では、AI時代における戦略の立て方と実行の方法を、体系的にわかりやすく解説しています。
IGPIグループ共同経営者、IGPIシンガポール取締役CEO、JBIC IG Partners取締役。早稲田大学政治経済学部卒、IEビジネススクール経営学修士(MBA)。ITストラテジスト。
大学卒業後、キャップジェミニ・アーンスト・アンド・ヤング(現フォーティエンスコンサルティング)に入社。日本コカ・コーラを経て、創業期のリヴァンプ入社。アパレル企業、ファストフードチェーン、システム会社などへのハンズオン支援(事業計画立案・実行、M&A、資金調達など)に従事。
その後、支援先のシステム会社にリヴァンプから転籍して代表取締役に就任。
退任後、経営共創基盤(IGPI)に入社。2013年にIGPIシンガポールを立ち上げるためシンガポールに拠点を移す。現在は3拠点、8国籍のチームで日本企業や現地企業、政府機関向けのプロジェクトに従事。
単著に『戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』『超速で成果を出す アジャイル仕事術』、共著に『構想力が劇的に高まる アーキテクト思考』(共にダイヤモンド社)がある。




