なぜTSMCは熊本第2の設計を変更するのか

 わが国の半導体産業も、こうした荒波の影響を受けている。TSMC熊本第2工場の計画変更についてつぶさに考えてみよう。

 今年10月、TSMCは熊本第2工場の建設を開始した。当初は回路線幅6~40ナノメートルの半導体を製造する計画だった。しかし、11月下旬から工事を一時中断し、設計をし直していると報じられている。どうやら、エヌビディアのGPU製造などに必要な回路線幅4ナノメートルの先端チップ製造を検討しているようだ。

 その背景には、熊本第1工場の予想外の苦戦があるだろう。24年12月、TSMC熊本第1工場は稼働開始。車載用を中心に、回路線幅12~28ナノメートルの半導体を製造する。第1工場が着工した22年春ごろは、産業界ではEV化が加速し、車載用半導体の需要が増えるとの予想が多かった。

 しかし、EVの航続距離の短さや価格の高さ、バッテリーの安全性、トランプ政権の影響などによってEV需要は伸び悩んでいる。中国で、汎用型の半導体製造能力が向上した影響も大きい。その結果、熊本第1工場の稼働率は期待したほど高まらなかったようだ。

 米中対立や台湾有事のリスクも高まっている。台湾では、半導体エンジニアをはじめ人材が不足している。電力、水、土地などの資源も不足気味だ。

 現在、世界のAIサーバー用GPU市場では、エヌビディアが90%超ものシェアを確保したとの推計もある。しかも、米IT企業がチップを自社開発するのが増えているので、先端チップの製造ラインは逼迫(ひっぱく)するだろう。

 こうした状況に対応するためにも、TSMCは熊本第2工場の操業開始時点から、先端品を生産しようとする可能性は高い。TSMCは、わが国の半導体製造ライン構築を重視している。先端半導体の量産開始こそ、今後を占う重要なファクターになることは間違いない。