日本経済再興に必要なラピダスの成功

 TSMC熊本から、北海道千歳市に工場建設中のラピダスに目を転じよう。今月、同社は国内22社から追加出資を取り付けた。27年以降、3メガバンクが最大2兆円の融資を行う計画であることも報じられている。ラピダスはこれらの獲得した資金で、先端チップの量産体制を急ぎ、マーケティングの強化に取り組むことになる。

 ラピダスに対しては、IBMが2ナノメートルの半導体回路の開発や、製造技術を提供している。そして、米AIチップ新興のテンストレントは、ラピダスのテストチップを高く評価している。ラピダスの動向に刺激され、わが国ではフォトレジスト(感光材)のような半導体関連部材、検査・製造装置の分野でも投資が増加傾向にある。

 ただし、ライバルは先行している。すでに今年、TSMCとサムスン電子が、最先端の回路線幅2ナノメートルの半導体を量産し始めている。

 TSMCは28年に、次世代の1.4ナノのチップ量産を計画している。投資額は500億ドル(約7兆8000億円)超になる見込み。対してラピダスは29年に1.4ナノ半導体の生産稼働を計画している。

 この先5年、IT先端分野は今以上のスピードでAIの性能が高まり、ヒューマノイドが社会に浸透している可能性も高い。一定ではなく、時に急速にスピードアップするとみた方がよさそうだ。

 ラピダスはライバルに追い付き、追い越すことができるのか。多様な利害を迅速に調整し、国内外の関連企業との協業体制を拡充して世界トップの製造技術を実現できるのか。

 もちろんそれは容易ではない。しかし、ラピダスの成功が、日本企業が強みとする半導体関連部材や製造装置の分野がさらに伸びるか否かを左右するだろう。

 ラピダスの経営にはより一層の成長戦略が必要であり、官民一体でリスクテイクをサポートすべきだ。それが、中長期的な日本経済の展開に、大きな影響をもたらすことは言うまでもない。

真壁昭夫・多摩大学特別招聘教授のプロフィール