シンガポール国立大学(NUS)リー・クアンユー公共政策大学院の「アジア地政学プログラム」は、日本や東南アジアで活躍するビジネスリーダーや官僚などが多数参加する超人気講座。同講座を主宰する田村耕太郎氏の最新刊、『君はなぜ学ばないのか?』(ダイヤモンド社)は、その人気講座のエッセンスと精神を凝縮した一冊。私たちは今、世界が大きく変わろうとする歴史的な大転換点に直面しています。激変の時代を生き抜くために不可欠な「学び」とは何か? 本連載では、この激変の時代を楽しく幸せにたくましく生き抜くためのマインドセットと、具体的な学びの内容について、同書から抜粋・編集してお届けします。
Photo: Adobe Stock
師匠からのアドバイス
私の政治家時代の師匠の一人は、同じ山陰出身の参議院議員だった青木幹雄さんだ。
青木先生にはときに優しく、またあるときには、厳しくご指導いただいた。
服装、時間厳守、選挙対策、国会でのマナー、派閥での行動、国会での言動等々である。その中でも忘れられないエピソードがある。
あるとき、青木先生が鳥取に私の同僚の参議院選挙の応援に来られたことがあった。
まず私が演説して、その後、青木先生が演説された。
私は、豊富なデータや数字、話題を駆使した自分の話に自信を持っていた。青木先生にも褒めてもらえると思って全力で話し、大きな拍手をいただき、得意げに自席へ戻った。
続いて、青木先生の演説を初めてナマで聞いた。
話の内容は、会場に来ている誰でもが理解できるような平易な言葉を使って、とてもわかりやすい内容だった。
ただ、話にメリハリがあり、最後に向けて盛り上がり、最後は会場にいる人の気持ちを一つにして、その議員さんへの応援を盛り立てる素晴らしいものだった。
帰り際に青木先生から、私の演説への評価とアドバイスをいただいた。
「君の話は元気があっていい。内容も盛りだくさんだ。若いエネルギーを感じさせる。良かったよ」
「でも、自己満足のために、我々は、わざわざここに顔をそろえているんじゃない」
「大事なのは、観客席にいる人の印象だ」
「観客を見ながら話すのではなく、観客席に自分を置いてみるのだ。一階席、今日は大きな会場だったから、二階席にも自分を置いてみるのだ」
「話している自分を離れて、自分の話を観客席から聞いているイメージを持つんだよ」
といって肩をポンと叩いて、笑顔で青木先生は車に乗って去って行かれた。
この話は、とても腑に落ちた。そして少し衝撃も受けた。なるほど、と膝を打った。
演壇の上で得意げに数字や政策を話す自分を、観客席から眺めたらどんな感じだったろうか?
二階席から見ている人のことを、考えたことがあっただろうか?
プチ幽体離脱をせよ、とのアドバイスであった。
観客席や教室の席に
自分を幽体離脱して持っていく
百戦錬磨の政治家は、そこまで考えて演説しているのか? と自分の視野が広がり、感銘を受けた。
そこからは政治家時代も、そして今も、講演でも授業でも、常にそのことを念頭に置いている。
これもメタ認知だ。
ゾーンに入って話しながらも、観客席や教室の席に自分を幽体離脱して持っていくイメージだ。
こうすることで、より相手に伝わり、相手が求めていそうな話を思い描きながら、話ができるようになった。
テレビで見たときには伝わってこなかった、大物政治家のすごいスキルを見せてもらった瞬間だった。
(本稿は『君はなぜ学ばないのか?』の一部を抜粋・編集したものです)
シンガポール国立大学リー・クアンユー公共政策大学院 兼任教授、カリフォルニア大学サンディエゴ校グローバル・リーダーシップ・インスティテュート フェロー、一橋ビジネススクール 客員教授(2022~2026年)。元参議院議員。早稲田大学卒業後、慶應義塾大学大学院(MBA)、デューク大学法律大学院、イェール大学大学院修了。オックスフォード大学AMPおよび東京大学EMP修了。山一證券にてM&A仲介業務に従事。米国留学を経て大阪日日新聞社社長。2002年に初当選し、2010年まで参議院議員。第一次安倍内閣で内閣府大臣政務官(経済・財政、金融、再チャレンジ、地方分権)を務めた。
2010年イェール大学フェロー、2011年ハーバード大学リサーチアソシエイト、世界で最も多くのノーベル賞受賞者(29名)を輩出したシンクタンク「ランド研究所」で当時唯一の日本人研究員となる。2012年、日本人政治家で初めてハーバードビジネススクールのケース(事例)の主人公となる。ミルケン・インスティテュート 前アジアフェロー。
2014年より、シンガポール国立大学リー・クアンユー公共政策大学院兼任教授としてビジネスパーソン向け「アジア地政学プログラム」を運営し、25期にわたり600名を超えるビジネスリーダーたちが修了。2022年よりカリフォルニア大学サンディエゴ校においても「アメリカ地政学プログラム」を主宰。
CNBCコメンテーター、世界最大のインド系インターナショナルスクールGIISのアドバイザリー・ボードメンバー。米国、シンガポール、イスラエル、アフリカのベンチャーキャピタルのリミテッド・パートナーを務める。OpenAI、Scale AI、SpaceX、Neuralink等、70社以上の世界のテクノロジースタートアップに投資する個人投資家でもある。シリーズ累計91万部突破のベストセラー『頭に来てもアホとは戦うな!』など著書多数。



