シンガポール国立大学(NUS)リー・クアンユー公共政策大学院の「アジア地政学プログラム」は、日本や東南アジアで活躍するビジネスリーダーや官僚などが多数参加する超人気講座。同講座を主宰する田村耕太郎氏の最新刊、君はなぜ学ばないのか?』(ダイヤモンド社)は、その人気講座のエッセンスと精神を凝縮した一冊。私たちは今、世界が大きく変わろうとする歴史的な大転換点に直面しています。激変の時代を生き抜くために不可欠な「学び」とは何か? 本連載では、この激変の時代を楽しく幸せにたくましく生き抜くためのマインドセットと、具体的な学びの内容について、同書から抜粋・編集してお届けします。

なぜ欧米の大学入試では、自分の歴史を書かせるのか?Photo: Adobe Stock

自分自身を観察することが大事

 今回は、学ぶときに重要になる「観察力」について説明しよう。

 まずは、自分自身を観察することの重要性について共有したい。意外にも、私たちは自分自身のことをよく知らないからだ。

 私がこのことについて痛感したのは、アメリカの大学院を受験するときである。

 当時、テストなどよりも苦労した経験から学んだことだ。欧米の大学や大学院の入試では、履歴書に加えて、自分の歴史についてエッセイを書くことを要求される。今から考えると、とてもいいことだったと思う。

 なぜなら、若いうちから自分を内省する、自分を知る機会を得られたからだ。

 高校の成績や共通テストのスコアではわからない、志願者の潜在能力を、志願者が提出する自己紹介文から垣間見ようとするのだ。

 具体的には、以下のような項目だ。

 ・学生生活や校風、学部への適性
 ・人生経験
 ・将来性
 ・価値観
 ・リーダーシップややりきる力

 そして何より、
 ・自分を客観的に観察する力

自分の歴史をエッセイにすることは、
「自分を知る」絶好のトレーニング

 18歳や17歳で、高校の成績を上げることや、共通テストのスコアを整えることで燃え尽きてしまう学生もいる。共通テストの高スコア獲得に高校時代に励みすぎて、肝心の大学からの学びに力を発揮できない学生は、東アジアからの学生に見られる傾向らしい。

 日本、中国、韓国、台湾などでは、一発試験のスコアで合格、不合格が決まる大学が多いからだ。

 しかし、アメリカの大学の見方は、

「大学で学んでさらに伸びる余白があること」
「今後、自分の大学や志願者が志向する学問が本人に合っていて力が発揮できるか」

にこそ注目している。大学からの伸び代を、より重視しているのだ。

 ただ、エッセイを書かせるというのは、
 ・思考力
 ・文章力

を同時に見ているということだ。これは志願者の地頭を見抜くには、いい選抜方法だ。

 そして、

 ・自分をメタ認知する力

も養える。このような能力こそ、若いころから培うべきものなのだ。

 私が、自分の歴史をエッセイにすることをおススメする最大の理由は、「自分を知る」絶好のトレーニングになるからである。

自分を知らなければ、目的地がわからない

 私は、アメリカの大学院にどうしても受かりたかったので、エッセイのコンサルティングを受けて、自分のことを深く自省することから始めたのを覚えている。

 ・自分がどんな価値観を持っているか?
 ・それが養われた経験は、どのようなものだったか?
 ・自分が本当にやりたいこと、目指すものは何なのか?
 ・自分を小さいころから振り返って、本当の自分の適性は何なのか?
 ・自分の強みと弱みは何か?
 ・自分の今の実力と、将来の夢のギャップはどれくらいか?

 それまで、上記のようなことは、実は自省したことがなかった。

 それと同時に、書いたものを合否判定する大学のアドミッション(入学)の立場から評価する訓練も、そのコンサルティングで初めて受けた。

 まさに、それこそメタ認知トレーニングだった。

 そこで、世間で言われる成功とか、金銭的な成功などを追い求めてしまっていた自分に気づいた。そして、そのための留学であり、留学先選びをしてしまっていた。

 他人にばかり関心があった。

 自分は好きだが、自分には「根拠がない妙な自信」しかなく、自分を見つめることは、できていなかった。遅きに失したが大学院の入試で、その機会を持てたことはよかった。

 そしてなんとか希望の大学院に合格し、自分の置き場所をアメリカに変えてみて、いろいろな国の人や、違う組織から派遣されていた社会人と交流しながら、彼らの価値観や人生経験に触れることで、自分を省みる機会を持つことができた。それ以来、少しずつだが、自省する機会を持つようになった。

 以前に、『孫子』の「彼(敵)を知り己を知れば、百戦して殆からず」という一節を取り上げたように、まずは「自分を知る」ことが、とても大事である。

 それができれば、あなたの向かう先、本当に対決すべき敵(目的)が見えてくる。

 敵(目的)がしっかり観察できれば、勝利を手に入れる確率は高まるのである。

(本稿は君はなぜ学ばないのか?の一部を抜粋・編集したものです)

田村耕太郎(たむら・こうたろう)
シンガポール国立大学リー・クアンユー公共政策大学院 兼任教授、カリフォルニア大学サンディエゴ校グローバル・リーダーシップ・インスティテュート フェロー、一橋ビジネススクール 客員教授(2022~2026年)。元参議院議員。早稲田大学卒業後、慶應義塾大学大学院(MBA)、デューク大学法律大学院、イェール大学大学院修了。オックスフォード大学AMPおよび東京大学EMP修了。山一證券にてM&A仲介業務に従事。米国留学を経て大阪日日新聞社社長。2002年に初当選し、2010年まで参議院議員。第一次安倍内閣で内閣府大臣政務官(経済・財政、金融、再チャレンジ、地方分権)を務めた。
2010年イェール大学フェロー、2011年ハーバード大学リサーチアソシエイト、世界で最も多くのノーベル賞受賞者(29名)を輩出したシンクタンク「ランド研究所」で当時唯一の日本人研究員となる。2012年、日本人政治家で初めてハーバードビジネススクールのケース(事例)の主人公となる。ミルケン・インスティテュート 前アジアフェロー。
2014年より、シンガポール国立大学リー・クアンユー公共政策大学院兼任教授としてビジネスパーソン向け「アジア地政学プログラム」を運営し、25期にわたり600名を超えるビジネスリーダーたちが修了。2022年よりカリフォルニア大学サンディエゴ校においても「アメリカ地政学プログラム」を主宰。
CNBCコメンテーター、世界最大のインド系インターナショナルスクールGIISのアドバイザリー・ボードメンバー。米国、シンガポール、イスラエル、アフリカのベンチャーキャピタルのリミテッド・パートナーを務める。OpenAI、Scale AI、SpaceX、Neuralink等、70社以上の世界のテクノロジースタートアップに投資する個人投資家でもある。シリーズ累計91万部突破のベストセラー『頭に来てもアホとは戦うな!』など著書多数。