一戸の父・孫作がこの地に漁場を構えたのも、魚がそれなりに獲れた好漁場だったからだ。

 そこで三上は「住み分けができるのではないか」と考えた。

「現在ロシア人が居住、あるいは使用している地域は、北方四島全体の面積のごくわずかに過ぎません。そこで、全体の面積の3割を原則としてロシア人に貸与する。日本側もロシア側同様、原則として四島の3割を活用する。残る4割は、自然保護区として両国でしっかり保全していくというのはどうでしょう。もちろん四島の日本への返還が前提です」

 混住を実際に体験した元島民だけに、三上の提案は極めてユニークで現実的だ。

「北方領土の主権を日本に返還した上で、ロシア3、日本3、自然保護区4の面積割合で、住み分けてはどうでしょうか」

 この提案は、自然保護区を活用した形の「居住区域の分離」と表現した方が分かりやすいかもしれない。

 三上の考える「住み分け」の全体的なイメージとしては、米軍基地が点在する沖縄の現状に似ている。ロシア人に3割を使わせるイメージとしては、英国が99年後に香港を中国に返還した「香港方式」のような形が想定される。

ロシアによる『取得時効』を
防ぐために必要なのは……

 第2次世界大戦で日本が敗れるまでの歴史は、日露通好条約から数えれば90年、樺太千島交換条約から数えても70年。一方、ソ連と後継国家のロシアが北方四島を実効支配した歳月は、すでに80年を刻んでしまっている。

「人が住んでいてこそ領土」という大原則からすれば、ロシア人による「居住の既成事実化」は着実に進んでおり、さらにあと10年たてば、日露通好条約以降、敗戦まで日本人が暮らしていた歳月をも超えてしまう。三上の言を借りれば、

「このままでは、ロシアによって『取得時効』されてしまいかねない状況まできています」

 ということになりかねない。

 取得時効。難しい法律用語だが、民法162条第1項では、こう説明している。

「20年間、所有の意思をもって平穏かつ公然と他人の物を占有したものは、その所有権を取得する」