第2次世界大戦の際、ソビエト連邦は「独ソ戦争」では大量の犠牲者を出したが、太平洋戦争ではそれほど被害を受けていない。にもかかわらず、戦争末期になって突然、満洲、朝鮮半島、樺太、千島に攻め込み、火事場泥棒のように領土を奪っていったのである。
北方領土問題の本質は
戦後処理の積み残し
受話器を置いてから私は以前、彼が北方領土問題の本質について熱心に語っていたことを思い出し、ノートをひっぱり出した。
「北方領土問題の本質は、そもそも戦後処理の積み残しなのです。だとすれば、国際法上の戦後処理のルールに従って解決すれば良いのです」
2013年の取材ですでに三上はこう話していたのだ。
「戦後処理の積み残し」ということばに私の頭が追いついていないことを察した三上は、分かりやすい事例で説明を加えた。どんなに難しい法律論でも、三上は私が理解できる水準まで降りてきて説明してくれる。このときもそうだった。
「悪質な交通事故の事後処理を考えてみて下さい。人身事故であれば、刑事裁判にかけられますよね。これに相当するのが極東国際軍事裁判(東京裁判)です。それとは別に、事故の損害賠償は、民事裁判における『和解』によって解決が図られます。
つまり、プーチン大統領の『引き分け』発言は、交通事故の民事裁判に相当します。これと同じように考えれば、民事裁判での『引き分け』、つまり『和解』を成立させるためには、当事者どうしの『相場観』が一致しなければなりません」
「相場観?」
私はさらなる説明を求めた。
「解決を図るには、双方が国際的ルールと相場観を共有する必要があります。相場観の共有には、『国民を含めた情報の流通』と『政府間の具体的相互提案』が不可欠なのです」
実に明確な考察だと私は思った。2013年の段階ですでにここまで考えていたのである。
北方四島におけるロシア人の
居住地域の少なさに注目
「戦後処理の積み残し」をどう解決するかについて、三上の主張を整理するとこうなる。
戦後処理手続きの本質は、民事訴訟であり、「引き分け」は民法における「和解」に相当する。和解に至るには、双方の「相場観」が合わないといけない、ということだ。
仮にソ連を継承したロシアが日本の主権を認めていくつかの島を返還する場合、妥協点としては、「いま住んでいるロシア人の居住権を認めるとか、転居費用を負担するなどの広い意味で戦後処理をする必要があります」。







