北方領土Photo:PIXTA

平和を愛してやまない日本国民は、「他国とのトラブルは外交で解決せよ」と叫びがちだ。だが、外交は軍事力をベースとした「圧力」が背景にあってこそ機能するもの。ロシアに不法占拠されている北方領土を取り返すには、力を見せるしかない。それが国際政治のリアルだ。※本稿は、眞 淳平『ニッポンの数字――「危機」と「希望」を考える』(ちくまプリマー新書、筑摩書房)の一部を抜粋・編集したものです。

日米安保の「圧力」があるからこそ
日本の外交は機能している

 日本ではよく、「問題が生じても、争いではなく、外交で解決するべきだ」という意見が、報道されます。もちろん、その通りでしょう。

 ただしそこでは、外交の意味をきちんと認識しておく必要があります。

「外交」はおもに、(1)説得、(2)圧力、の2つから成ります。

 (1)は、相手国に、自国の提案を受け入れた場合のメリット、受け入れなかった際のデメリット、を説くなど、文字通りの説得です。

 多くの人は、ひょっとすると外交を、(1)だけに限定して認識しているかもしれません。

 ちなみに外務省が、両国の外交当局者による会談が「率直かつ建設的に行われた」、などと発表することがあります。これは外交用語で、激しいやり取りが行われたこと、を意味することが一般的です。和やかに話が進んだ訳ではありません。

 一方、実際の外交では、(2)がきわめて重要な役割を果たします。たとえば、相手国に対して、原材料・製品などの輸出入を制限するなどの「経済制裁」。これも圧力の1つです。

 また、「日米安全保障条約」(日米安保)をもとにした日米の安保体制や、「NATO」(北大西洋条約機構)なども、仮想敵国(自国・地域を攻撃してくる可能性がある国)に対する圧力となっています。

 もし、日本やNATO加盟国に、軍事侵攻を行えば、米軍を中核とするNATO加盟国の軍が、反撃をすると規定。これによって、敵対的な国が攻撃を諦める、「抑止力」としているのです。

「国同士の問題は外交で解決」が建前だが
現実には戦争を外交に使う国もある

 ドイツ統一の立役者の一人、プロイセンの著名な軍人・軍事研究者カール・フォン・クラウゼヴィッツ(1780~1831年)は、広く知られる著書『戦争論』の中で、「戦争は政治におけるとは異なる手段をもってする政治の継続にほかならない」と述べています。外交が、自国の主張を相手国に受け入れさせるための手段である、とするならば、戦争は、外交の究極の形態なのだ、と彼は説いたのです。